研究者にとって日々増え続ける文献の中から有用なコンテンツを見つけることは重要な作業の一つだが,そのためにあまり時間と労力は割けない。一方の提供側の学術出版機関では,情報洪水の中で自機関のコンテンツを溺れさせることなく,必要とする読者に効率的に発見してほしいと願っている。このような状況の中,双方のニーズに応える手段として文献レコメンデーションサービスの存在感が増してきている。
2014年にカナダを本拠としてサービスを開始したTrendMDは学術文献のレコメンデーションを創出するプラットフォームとして躍進を遂げている。現在,月に10億以上のレコメンデーションを,AAAS,ASCO,BMJ,Elsevier,IEEE,PNASなど,300超の出版機関の4,500超のサイトに提供している。
推奨文献の選定は,通販サイトと同様の文献間の共起性や閲覧パターンの類似性を用いる協調フィルタリングをベースに,ディープラーニングによるセマンティックなテキスト分析,文献の人気度,地理的要因,状況的要因,ソーシャルメディアのトレンド,閲覧履歴などから利用者ごとにパーソナライズする独自のアルゴリズムにより行われる。
推奨文献の提示は,読者がTrendMDに参加する出版機関のコンテンツをブラウザに表示すると,そのページの中に推奨文献をリストしたウィジェットをロードするスタイルをとっている。今のところメールなどで定期送信するサービスは行っていない。 MendeleyやReadCube,Springer Natrueなどが提供するレコメンデーションのように利用者によるアカウントの作成やログインを必要とせず,閲覧者のブラウザからの情報のみで利用者を同定している。
レコメンデーション対象文献はTrendMDに参加する出版機関の文献同士に限られ,自機関の文献が起点となり他機関へのアクセスが発生すると0.5のクレジットを取得し,逆に,他機関文献からのアクセスを受けると1クレジットを消費する互助的な機関ネットワークが構築されている。この土台の上で,コンテンツの表示機会の維持と増加のためにクレジットの買い増しを促すWebマーケティング的なビジネスモデルを提供している。
TrendMDはHighWire,Atyponなど著名な電子ジャーナルプラットフォーム提供者が技術パートナーとなっていて,多くの場合,導入作業は数行のJavaScriptを追加するだけで済み負担が軽い。導入後は,Google Analyticsでジャーナルごとの流入をリアルタイムに確認することで効果を把握しやすい。
学術出版にAI技術を活用しようという動きが強まる中で,文献レコメンデーションはそれを実践する格好の分野であり,今後も複数のサービスが競合しながら進化していくことが見込まれる。各利用者のニーズを的確に汲み取り,有用な文献を提示する本来の機能が磨かれ研究活動に貢献することを期待したい。
<参考>
・TrendMD:
https://www.trendmd.com/
・小誌第284号 2021年の学術出版技術トレンド(2017年5月):
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=180&dispmid=605