抄訳
加齢に伴い体内に蓄積した老化細胞は様々な炎症性蛋白質を分泌するSASP (Senescence-Associated Secretory Phenotype)をおこすことで、周囲の組織に炎症や発がんを誘発する。そのため、超高齢化社会を迎えた我が国においてSASP制御機構の解明が重要な課題とされている。本研究ではエピゲノム解析の結果から、老化細胞ではゲノムの反復配列(ペリセントロメア領域)の染色体が開き、この領域からノンコーディングRNA(サテライトII RNA)の転写が亢進していることを見出した。また、サテライトII RNAは適切な染色体構造の維持に重要なCTCFと結合し、その機能を阻害することで染色体間相互作用を変化させ、炎症性遺伝子群(SASP遺伝子群)の転写を促すことを明らかにした。さらに、がん微小環境においてがん細胞だけでなく、がん関連間質細胞(CAFs: Cancer Associated Fibroblasts)においてもサテライトII RNAが高発現しがんの悪性化に寄与していることが示唆された。これらの結果より、サテライトII RNAによる新たなSASP制御機構が解明され、サテライトII RNAが加齢性疾患の新規治療標的となりうる可能性が示唆された。