抄訳
アダプタータンパク質のp52SHC(SHC)およびGRB2はどちらも、細胞表面受容体からERK経路へのシグナル伝達を仲介する。私たちはSHCおよびGRB2の役割を調べるために、これらのタンパク質をMCF7細胞内に発現させ、分化誘導因子により刺激した際の、細胞膜への移行ダイナミクスを計測した。その結果、SHCは持続的に膜局在するのに対してGRB2は一過的に膜局在することがわかった。ERKの核局在化はSHCと同様に持続的であったが、SHCをノックダウンすると応答量が減少し、さらに一過的になったことから、SHCはERKの初期応答と持続的な核局在化の両方に寄与していることがわかった。さらに阻害剤等を用いた解析から、ERKの初期応答はSHC-GRB2-RAF経路に依存していたのに対して、ERKの持続的な応答はRAF非依存的にMEKを活性化するSHC-PI3K経路に依存していることがわかった。またERBB-1受容体の過剰発現によってもSHCとERKのダイナミクスは共に一過的となり、その様な細胞では、細胞運命決定のバイアスも分化から増殖へとシフトした。このようにSHCはERKシグナルにおいてGRB2とは異なる機能を有している事が示唆された。