抄訳
骨格筋はグルコースのホメオスタシスを制御する主要な代謝器官であり、収縮特性に基づいて遅筋線維と速筋線維で構成される。遅筋線維は速筋線維に対して2~3倍のミトコンドリアを有してミオグロビンや酸化酵素が豊富で脂肪酸酸化によるエネルギー産生が効率的であり、持続的な活動に適する一方で、速筋線維は解糖系代謝が特徴で瞬発的な活動に適する。肥満、糖尿病では遅筋線維の減少が報告される一方で、加齢やサルコペニアでは速筋線維の減少が知られているが、遅筋と速筋を制御する機序は十分に解明されていない。SGLT2阻害薬は腎近位尿細管でのグルコースの尿中排泄を促進する経口血糖降下剤である。SGLT2阻害時の負のエネルギーバランスは、体重および脂肪量の減少に繋がる一方で、骨格筋においては筋萎縮やサルコペニアの誘発が懸念される。本研究では、非糖尿病C57BL/6JマウスにVehicleまたはSGLT2阻害薬カナグリフロジン(CANA)を自由摂餌下で投与して遅筋と速筋に及ぼす影響を検討した。SGLT2阻害時には、摂餌量増加に伴って速筋機能が亢進したが、遅筋機能は影響を受けず、遅筋・速筋の重量は維持された。CANA投与群の摂餌量をVehicle投与群の摂餌量に制限すると、CANA投与群の速筋の重量と機能が低下したが、遅筋への影響はみられなかった。メタボローム解析において自由摂餌下でSGLT2阻害時に速筋では解糖系代謝産物およびATPが増加し、遅筋では解糖系代謝産物が減少したがATPは維持された。アミノ酸と遊離脂肪酸はSGLT2阻害時に遅筋で増加したが、速筋では変化しなかった。更に遅筋と速筋の代謝物への影響は摂餌量制限で顕著となった。本研究はSGLT2阻害薬が糖代謝障害とは独立して遅筋と速筋に及ぼす影響の違いを明らかにすることで、サルコペニアのリスクが高い糖尿病患者におけるSGLT2阻害薬の使用について新しい知見を提供することが示唆される。