抄訳
卵子と精子由来のそれぞれのゲノムは、受精後にリプログラミングされ、新たな個体発生に不可欠と考えられる胚性ゲノムの活性化(EGA:embryonic gene activation)が起こる。従来の知見では、ヒトにおいては受精直後の遺伝子発現は静止状態にあり、EGAは8細胞期胚頃までに起こると考えられてきたが、哺乳類におけるその詳細なタイミングやプロファイルには、未だ不明な点が多く残されている。
本研究では、7人のドナー由来の卵子と、異なる人種背景の6カップル由来の正常1細胞期受精卵(2pn)を実験試料として、単一細胞レベルでのpoly(A)+mRNA非選択的なscRNA-seqを行い、統計的に意義のある1細胞期胚遺伝子発現プロファイリングを得ることに成功した。解析の結果、ヒトEGAは1細胞期において起こり、成熟mRNAを産物としているという新たな知見を提示した。バイオインファマティクス解析により、1細胞期胚EGA遺伝子群の多くは、2〜4細胞胚期まで発現が維持されたのち、8細胞期胚までに顕著に減少すること。また、EGAの上流制御遺伝子候補にMYC, MYCN, RABL6, E2F4等が含まれることを明らかにした。更に、1細胞期胚EGAは正常受精卵特有の発生制御機構を担っていることをも示唆した。