本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2024/08/20

加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する

論文タイトル
SDHAF1 confers metabolic resilience to aging hematopoietic stem cells by promoting mitochondrial ATP production
論文タイトル(訳)
加齢造血幹細胞はSDHAF1を介したミトコンドリアATP産生によって代謝可塑性を獲得する
DOI
10.1016/j.stem.2024.04.023
ジャーナル名
Cell Stem Cell
巻号
Cell Stem Cell Volume 31 Issue 8
著者名(敬称略)
綿貫慎太郎、小林 央、田久保圭誉 他
所属
東北大学大学院医学系研究科、国立国際医療研究センター研究所
著者からのひと言
この論文の最初の着想は、加齢造血幹細胞が解糖系を欠失した状況でも生存可能という現象の発見でした。そこから足かけ6年以上かかりましたが、単一細胞ATP測定技術や少数細胞の同位体トレーサー解析など総力を結集して、当初のきっかけであった解糖系に留まらない加齢造血幹細胞の生存を優位にさせる代謝プログラムを明らかにし、幹細胞の老化の新たな一面を明らかにできたと考えています。

抄訳

幹細胞は加齢に伴って数と機能が低下すると一般に考えられていますが、血液を産生する造血幹細胞(HSC)は、加齢により数が増加するという一見矛盾する挙動を示します。本研究では、加齢マウスを用いた実験で、HSCが老化に伴い、通常であれば細胞死を招くような様々な代謝ストレスに対して耐性を持ち、生存優位性を獲得することを発見しました。さらに、加齢HSCでは、ミトコンドリアの呼吸鎖複合体の活性を上昇させるSDHAF1が蓄積し、その結果、酸化的リン酸化によるATPの産生が増強され、代謝ストレスに対する耐性が向上することが判明しました。実際に、若齢HSCにSDHAF1を過剰発現させると、加齢HSCと同様の代謝特性や細胞死耐性が見られました。これらの研究結果から、加齢HSCは単なる機能低下した細胞ではなく、エネルギー代謝の観点から見ると“強い”HSCであることが明らかになりました。この知見に基づき、加齢に関連する血液異常を改善する新たな治療法の開発が期待されます。

論文掲載ページへ