抄訳
基底膜は組織幹細胞の挙動を制御する幹細胞ニッチの一つである。成体の神経幹細胞は側脳室の脳室下帯に存在するが、基底膜がそのニッチとして機能しているかどうかはこれまで不明であった。本論文では、上衣細胞の細胞間および直下に存在する斑点状の基底膜(通称“フラクトン”)に着目し、これが従来考えられていたような血管基底膜の延伸構造ではなく、GFAP陽性の神経幹細胞が産生する幹細胞性維持のための足場(ニッチ)であることを見いだした。ラミニンα5鎖は斑点状基底膜の構成分子であるが、Gfap-Creマウスを用いて神経幹細胞/アストロサイト特異的にその発現をノックアウトすると、斑点状基底膜のラミニンα5鎖の発現は有意に減少した。また、同様にして基底膜ラミニンのインテグリン結合能を神経幹細胞/アストロサイト特異的に消失させると、斑点状基底膜の数や大きさが減少し、ニューロスフィア形成能が顕著に低下した。これらの結果は、斑点状基底膜が神経幹細胞/アストロサイトによって産生され、その形成にはラミニンとインテグリンの相互作用が関与することを実証するとともに、これが神経幹細胞のニッチとして機能している可能性を強く示唆している。