抄訳
我々のトランスレーショナルリサーチにより、新規ペプチドであるVasostatin-1 (VS1)の動脈硬化抑制作用が世界で初めて明らかになった。動脈硬化の主要現象である血管内皮細胞やマクロファージの炎症、マクロファージの泡沫化、血管平滑筋細胞の遊走・増殖、細胞外マトリックスの産生に対するVS1の作用をin vitroで、ApoE欠損マウスへのVS1投与により動脈硬化病変進展に対する作用をin vivoで検討した。更に、ヒト動脈硬化病変でのVS1発現を検討した。VS1は、ヒト橈骨動脈の動脈硬化病変に強発現していた。また、VS1の発現は、ヒト大動脈平滑筋細胞(HASMC)とヒト臍帯静脈内皮細胞(HUVEC)にも確認された。VS1は、HUVECにおいてLipopolysaccharide刺激によるMonocyte Chemotactic Protein-1、Vascular Cell Adhesion Molecule-1、E-Selectinの発現の増加を抑制した。ヒト単球(THP1)からマクロファージへの分化過程でVS1に暴露すると炎症性M1が抑制され、Lipopolysaccharide刺激によるInterleukin-6とTumor Necrosis Factor-αの分泌を減少させた。VS1は、酸化LDLによるマクロファージの泡沫化を抑制した。その分子メカニズムとして、VS1によるCD36とAcyl-CoA:Cholesterol Acyltransferase-1の発現の抑制及びATP-Binding Cassette Transporter A1の発現の促進が認められた。VS1は、Angiotensin Ⅱ刺激によるHASMCの遊走、Collagen-3と Fibronectinの発現を抑制した。ApoE欠損マウスにVS1を投与したところ、空腹時血糖値とインスリン抵抗性は改善し、大動脈における動脈硬化病変、プラーク内のマクロファージ浸潤や炎症、血管平滑筋細胞の含有量、Collagen-3発現を抑制した。故に、VS1は血管壁の分子を直接ターゲットにし、動脈硬化の予防・治療に有用である事が示唆された。