抄訳
中枢神経系である脳や脊髄の血管は、細菌やウイルスなどの影響を防ぐために特殊な関所として血液脳関門を形成しています。血液脳関門は、免疫細胞はもとより、大きなたんぱく質なども通過できません。しかし、中枢神経系にも細菌やウイルスが感染し、がんや炎症などに起因する難病が発症します。こうした背景から、病原体や免疫細胞などが中枢神経系に入るゲートがある可能性が考えられてきました。しかし、そのゲートがどこにあり、またどのように形成されるのかなど、実体は不明でした。私たちは、中枢神経系の難病である多発性硬化症の動物モデルを用いて、血液脳関門のゲートの部位とその形成機構を調べ、第5腰椎の背側の血管がそのゲートであることを突き止めました。また、地球からの重力による日常的な刺激が第5腰椎付近の神経を活性化させ、それが慢性炎症の誘導機構"IL−6アンプ"を活性化することによってこのゲートが形成されることを突き止めました。今回の成果により、精神的ストレスでさまざまな病気が増悪する仕組み、あるいは、適度な運動が病気を改善するメカニズム、さらに、なぜ針治療で多くの病気が改善するのかなど、今まで不明であった神経や精神と免疫系の相互作用の分子基盤が解明されることが期待されます。