抄訳
神経細胞間のつなぎ目「シナプス」では電気信号が一旦、化学信号に変換されてから再び電気信号に変換され、これが神経回路を伝わることにより、脳が働くことになります。したがって脳の働きを持続させるためには、シナプスにおける信号変換プロセスが滞りなく作動することが必要です。そのための仕組みとして、化学信号を担う伝達物質を細胞内膜「小胞」に蓄えておき、電気信号によって伝達物質を開口放出させ、空になった小胞を回収・再利用する「小胞リサイクリング」が知られています。この仕組みを有効に作動させるために、小胞の開口数に応じて回収速度を調節するメカニズムがあると考えられていましたが、その実体は不明でした。今回、私たちは、伝達物質の放出量に応じてNOが産生され、これが酵素"PKG"を活性化して、小胞の回収を加速することを突き止めました。また、この仕組みは、生誕後、PKGの発現の上昇に伴って構築されることが分かりました。実際、PKGの活性阻害薬を神経細胞の軸索の先端に注入すると、シナプス伝達が脱落し、電気信号入力の出力変換率が著しく低下しました。今回明らかになったシナプス小胞開口・回収連関メカニズムは、脳神経疾患や向精神薬の標的となっている可能性があります。