抄訳
ドネペジルはアルツハイマー病患者の治療に用いられる可逆性のアセチルコリンエステラーゼ阻害薬である。近年、ドネペジルの投与が炎症性サイトカインの産生を抑制すること、また炎症は血管新生に重要な役割を果たす事が報告されている。そこでドネペジルが血管新生に及ぼす影響を検討した。ドネペジル投与はマウス下肢虚血モデルにおいて血流の回復を抑制し、虚血下肢の毛細血管密度を減少させた。構造の異なるアセチルコリンエステラーゼ阻害薬であるフィゾスチグミンでも同様の結果が得られた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢ではインターロイキン(IL)-1βとvascular endothelial growth factor (VEGF)の発現が低下していた。ドネペジル投与を受けたマウスの虚血下肢にIL-1βを投与すると,VEGFの発現が増加し、血流低下や毛細血管密度低下が回復した。またドネペジルを投与したマウスの虚血下肢では対照群と比べてAktのリン酸化が低下していた。これらのデータより、ドネペジルによるアセチルコリンの増加が、Akt活性化を抑制し、IL-1βの産生/VEGF誘導を抑制するため血管新生が抑制されると考えられた。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬が新規の血管新生抑制薬となる可能性が示唆された。