抄訳
害虫の殺虫剤抵抗性は世界中で大きな問題となっている。抵抗性のメカニズムとしては解毒機構の活性化や標的タンパクの構造変化などが知られるが、いずれも昆虫自身の遺伝子によって決まる性質だと考えられてきた。本研究では、害虫が殺虫剤分解菌を体内に共生させることで殺虫剤抵抗性になるという、これまでまったく知られていなかった抵抗性の発達メカニズムを発見したので報告する。ダイズの害虫であるホソヘリカメムシは消化管に「盲嚢」と呼ばれる袋状の組織を多数発達させており、その中にBurkholderia属細菌を保持している。このカメムシは共生細菌を母子間伝達せず、毎世代環境土壌中から共生細菌を獲得する。我々は野外調査と操作実験により、農耕地土壌中には殺虫剤であるフェニトロチオンを分解できるBurkholderiaが生息しており、ホソヘリカメムシがこれを取り込むことで殺虫剤抵抗性になることを実証した。さらに、農耕地土壌にフェニトロチオンを連続散布したところ、フェニトロチオン分解菌の土壌中密度が上昇し、これに伴いフェニトロチオン分解菌を取り込むカメムシの頻度も増大することを明らかにした。このことは、殺虫剤の散布が土壌微生物叢に影響を及ぼし、これが害虫の殺虫剤抵抗性化を引き起こす可能性を示している。