抄訳
近年、血中のWntシグナル活性化物質が老化を誘導することが報告されたが、その分子の正体は不明であった。
血清のWntシグナル活性化能は加齢マウスだけでなく、心不全モデルマウスでも亢進していたことから、心不全モデルマウスの血清から新規Wntシグナル活性化物質として補体分子C1qを同定した。C1qはWnt受容体であるFrizzledに結合後、C1r, C1sの活性化を介してWnt共受容体であるLRP5/6を切断することでWntシグナルを活性化した。C1q欠損マウスでは全身でWnt標的遺伝子の発現低下が認められ、老化に伴う全身のWntシグナル活性化も認められなかった。
加齢に伴い、骨格筋障害後の再生能が低下する。若齢マウスにC1qを投与すると同様に再生能低下が認められる一方、C1sに対する中和抗体を投与することで、加齢に伴う再生能低下が改善され、C1q欠損マウスでは加齢に伴う再生能低下が軽度であった。これらの結果はC1qがWntシグナル活性化を介し老化の表現型の一つである骨格筋障害後の再生能低下を引き起こすことを示している。