抄訳
分裂期は忙しい。例えば、15分程度しかない分裂前中期に、細胞にとっては「巨大な」染色体を引っ張れる、丈夫な紡錘糸を合成しなくてはならない。このため、中心体ではこの時期に、中心小体周辺物質 (PCM) が急速に増加し、中心体が肥大する。中心体成熟現象である。
Miki (mitotic kinetics regulator) は、白血病抑制遺伝子の候補として、骨髄性白血病で高頻度に欠失する7番染色体長腕より筆者らが同定した遺伝子産物である。Mikiは間期ではゴルジ体に局在するが、分裂開始に伴うゴルジ体の崩壊とともに、PAR化酵素 (PARP) であるtankyrase-1により高度にPAR化され、分裂期中心体へと移動する。
Mikiは紡錘糸合成装置である -TuRC(チュブリン・リング複合体)の構成成分である巨大な足場蛋白質CG-NAPを、未解明の機序で、分裂期中心体に局在させることにより、中心体成熟を促進する。Mikiの発現低下により、中心体成熟が起きなくなり、丈夫な紡錘糸が合成できず、染色体は赤道面に整列しにくくなる。その結果、前中期の延長や不均等分裂、分裂失敗によるアポトーシスが生じる。
Mikiの欠失は、骨髄性白血病や骨髄異形成症候群 (MDS) でしばしば見られ、発現の程度と分裂異常や核形態の異常には密接な関連が見られた。がん細胞の染色体不安定性メカニズムの一因をなすものとして注目される。