抄訳
遺伝情報を担う染色体は、細胞が分裂する際には凝縮し、一本一本の染色体が「分裂期染色体」と呼ばれる棒状の構造を形成します。同じ個体の中でも、DNAの塩基配列の長さは変わらないのに、分裂期染色体の長さは変わることが知られています。本論文では、染色体凝縮が「細胞核内のDNAの濃度」により制御されるとする新しいメカニズムが提唱されました。まず、線虫C. elegansを用いて、初期胚発生過程において、細胞核が徐々に小さくなる過程で、分裂期染色体の長さも徐々に短くなることを見いだしました。遺伝子操作により細胞核のサイズを変化させると、それに相関して分裂期染色体の長さも変化しました。分裂期染色体の長さは細胞核内のDNAの量にも相関しました。このことは、間期核内で染色体一本あたりの核の大きさが大きいほど分裂期染色体は長くなることを示しています。さらに、カエル卵の無細胞系を利用して細胞核のサイズを小さくしてから分裂期染色体を形成させると、やはり分裂期染色体は通常よりも短くなることを見いだしました。以上の観察は、染色体の凝縮が核の大きさやDNAの量といった物理的な制約をうけることを示す新たな知見です。