抄訳
鉄は生命にとって必須の分子であり、様々な補酵素として機能する。一方、活性酸素の産生に深く関与している。そのため、細胞内鉄量を厳密に制御することが重要である。鉄を細胞内に取り込む主な分子は二価鉄膜輸送体DMT1である。鉄は酸化ストレスの原因になるにも関わらず、DMT1によって取り込まれた鉄は細胞質内の“鉄イオンプール”に送られると長く信じられてきた。我々は、DMT1が取り込んだ二価鉄イオンを細胞質側で受容し輸送する分子があるという仮説のもと、解析を進めた。その結果、DMT1にポリC結合蛋白質(PCBP2)が結合することを見出した。DMT1又はPCBP2をノックダウンすると、細胞質内への鉄の取り込みが抑制された。さらに、鉄負荷DMT1はPCBP2と結合するが、鉄除去DMT1にはPCBP2が結合しないことを示した。即ち1) DMT1に鉄が取り込まれる、2) DMT1にPCBP2が結合、3) PCBP2へと鉄が渡される、4) DMT1から鉄結合PCBP2が乖離する、さらに5) 鉄排出を担う膜輸送体フェロポルチンFPN1と鉄結合PCBP2の間にも同様な結合を確認した。このように、膜輸送分子と細胞質の間で鉄の受け渡し機構が存在していることを証明し、PCBP2は「鉄のシャペロン分子」として“Gateway keeper”の役割を果たしていることが明らかになった。