抄訳
授乳時には乳頭吸引刺激による急性的な視床下部GnRH分泌抑制, 引き続く下垂体LH分泌の減少が生じ, 一時的な不妊状態となるが, GnRH/LHの減少がなぜ誘導されるのかはよくわかっていない. 本研究では, 異なる授乳状態のラットをモデルに, GnRH分泌の上流制御因子であるKiss1が授乳時の急性的GnRH/LH減少に関わる可能性を調べた.
ラットの視床下部Kiss1発現は母仔分離・再哺乳により急性的な変動を示した. 神経投射解析により, 乳頭吸飲刺激が脊髄・中脳を介した直接投射により視床下部弓状核のKiss1ニューロンに伝達され, Kiss1発現の急性的抑制, GnRHの分泌低下を惹起する可能性を見出した. また, 授乳時の血中プロラクチンの上昇に対してもKiss1は急性的に抑制されることがわかった. 弓状核のKiss1ニューロンは背側弓状核Dopamineニューロンへの投射を介して下垂体からのプロラクチン分泌にも関わるため, この回路を介した再帰的なKiss1の発現抑制も授乳期におけるGnRH分泌の減少に関わる可能性を見出した.
これらの結果は, 授乳期の排卵抑制~一時的不妊状態の分子メカニズムを機能形態学的に明らかにするものである.