抄訳
細胞は、収縮・遊走・接着などに伴って生体内でさまざまな力を発生し、また外から与えられた力に応答しながら上手く機能している。これらの力は細胞の核にも伝わり、核を歪め、内部に収納されたDNAの機能を阻害すると考えられている。
核に生じる変形は細胞死やがん化とも関連する重要な形質であるが、これまで核の硬さや弾性を直接計測することは難しく、従って核が力のストレスにいかに対抗するかのメカニズムはほとんど分かっていなかった。
本研究では、微小ガラスニードルを用いた物理計測とクロマチン生化学の解析手法を組み合わせることで、細胞核の硬さと弾性が核内のDNAによって生み出されていることを明らかにした。
さらにこの弾性が、ヌクレオソーム構造を取ったDNAが伸びたり切断されたりすることで弱くなることを発見した。
これまで、細胞核の硬さは核ラミナと呼ばれる核膜の裏打ち構造によって支えられているという考えが主流であった。
また、DNAは遺伝情報をコードするメモリデバイスであると考えられてきた。
本成果は、DNAが弾性バネとして機能することで核の硬さを制御するという、DNAの新たな役割を示唆するものである。