抄訳
心筋ミオシン結合タンパク質C(cMyBP-C)の遺伝子変異は、家族性肥大性心筋症の主因のひとつである。cMyBP-Cは、心筋サルコメア内のC-ゾーンと呼ばれる領域に局在し、クロスブリッジ制御を介して心機能を調節すると考えられているが、そのメカニズムには不明な点が多い。今回我々は、新規のcMyBP-C結合タンパク質として、心筋サルコメアの形成・維持に必須のアクチン調節因子であるフォルミンFhod3を同定した。cMyBP-Cの心臓特異的なN末端Ig様ドメインが、Fhod3の心臓特異的なN末領域と直接相互作用していた。cMyBP-Cとの結合領域を欠いた非心筋型Fhod3バリアントはC-ゾーンに局在できないこと、逆に心筋型Fhod3バリアントがcMyBP-C欠損マウスのC-ゾーンに局在できないことから、本相互作用がFhod3のC-ゾーンへの局在を決定していると考えられた。cMyBP-C欠損マウスにおける心筋症様の表現型は、Fhod3の過剰発現によって増悪し、逆にFhod3タンパク質レベルの低下により部分的に改善されたことから、Fhod3が正しい部位に局在できないcMyBP-C-欠損の状態下ではFhod3が心機能に有害な作用を及ぼすことが示唆された。以上より、Fhod3はcMyBP-Cとの直接結合を介して心機能の制御に関わると考えられる。