科学の世界を結び研究をオープンにすることを使命に掲げるResearchGateは,2008年の設立以来,193ヵ国に1,400万人以上の会員を擁する研究者向けのソーシャルネットワークサービスに成長した。
ResearchGateのプラットフォームでは,会員が自身のプロフィールを公開し論文などの研究成果をアップロードすることにより,研究者同士のネットワークの構築や討議の場,協業相手の発見,研究ポストの獲得などのメリットを享受できる。会員が拡大し公開される文献が増加するにつれ,論文リポジトリとしての側面がクローズアップされてきた。実際にアップロードされたフルテキストを目当てにした利用も増えているようだ。Kudosが中心になり2017年に実施した調査では,研究者SNSの利用目的として66%の研究者が収載されたコンテンツへのアクセス,57%が自身の出版物のアップロードと回答している。
ResearchGateは,知的所有権のポリシーとして会員に対しアップロードする文献が共有可能か確認するように要求しているが,チャールズスタート大学のJamali氏は同サイトからランダムに抽出した500論文のうち201が著作権を侵害していたと報告している。
このような状況下,主要な140以上の学術出版者から構成される国際STM出版社協会は9月15日,ResearchGateに対し同サイトでの論文共有に関し,著作権遵守を求める文書を送付し同月22日までに同意を求めたが,ResearchGateはこれを拒んだ。
これを受け,American Chemical Society,Brill,Elsevier,Wiley,Wolters Kluwerが,Coalition for Responsible Sharing(CRS)と呼ばれる出版社連合を設立した。CRSは10月5日,ResearchGateに登録されているコンテンツの約40%にあたる700万論文が営利企業であるResearchGateのプラットフォームで公開され出版社の権利を侵害しているとし,論文削除催告(takedown notices)を発すると発表。翌6日には,ACSとElsevierが,ResearchGateが本拠地とするドイツで同社を提訴。同月10日にCRSはResearchGateが相当数の文献を公開できなくしたことを確認したが依然不十分だとし,さらなる対応を求めた。
その後11月初旬にResearchGateはCRS 5社のコンテンツの約93%にあたる約170万論文を無料公開から,著者にフルテキストのリクエストが必要となるアクセス制限を設定する措置を講じた。
12月中旬,American Medical Association, American Physiological Society, Portland Press, World Scientific Publishingが新たにCRSに加わった。現状では著作権を有する多くのフルテキストが依然ResearchGateで公開されている。今後,同社がアクセス制限の対象を増やすのか,出版機関がどう反応していくか注視したい。
<参考>
・弊社が2017年12月6日に開催した「ユサコソリューションデイ2017福岡」で坂東慶太氏が発表した「研究者SNSとそこに収録された文献の利用」のスライド
https://doi.org/10.6084/m9.figshare.5675083.v1
・Coalition for Responsible Sharing
http://www.responsiblesharing.org/
・CA1848 - ResearchGate-リポジトリ機能を備えた研究者向けSNS- / 坂東慶太
カレントアウェアネス No.324 2015年6月20日
http://current.ndl.go.jp/ca1848
・2015年11 月 第267号 論文共有をめぐる出版者の動向
https://www.usaco.co.jp/u_news/detail.html?itemid=160&dispmid=605
刊行後の追記
本稿の内容を含む,研究者SNSの概要,利用状況,学術コミュニティの反応,新たな試みに関する論文が発表されました(2018年4月)。
・動向レビュー:研究者SNSとそこに収録された文献の利用 / 坂東 慶太
情報の科学と技術 68 巻 (2018) 4 号
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jkg/68/4/68_189/_article/-char/ja/