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2004/05/31:第142号学術ジャーナルの出版システムに対する研究者の意識調査
 

学術ジャーナルの出版システムに対する研究者の意識調査
ロンドン市立大学の調査グループ、Ciber(Centre for Information
Behaviour and the Evaluation of Research)は本年3月、英国の
Publisher Associationの要請のもと、オンライン学術ジャーナルに
論文を投稿する研究者を対象に現行の出版システムへの意識調査を行い、
その調査結果レポートである"Scholarly Communication in the Digital
Environment: What do authors want"を公開した。

 最近、著者に投稿料を請求することで読者の無料アクセスを実現する
Open Access、研究者の原著論文を所属機関からウェブ上で公開する
機関リポジトリなど、従来の商業出版社による学術ジャーナルに
取って代わる出版システムの是非について盛んに論議されているが、
論文を投稿する著者側の意見を集約した調査はほとんど行われていなかった。
今回のCiberによる意識調査は、世界中の研究者に対して学術出版システムに
ついての大規模アンケートを行った初めてのケースと言える。

 ISI(R)から提供されたメーリングリストをもとに、ここ18ヶ月の内に
最低1件の論文をピアレビュー誌に出版した研究者、107,500人が調査対象者に
選出され、アンケートに答えた3,787人(97ヶ国)の研究者の意見を分析した。

 「論文を投稿するジャーナルの選別する際、何を基準とするか」という質問
には、「特定の読者をターゲットとすること(Right kind of reader)」が
最も高い基準とされ、次いで「インパクトファクターの高さ」、「編集委員の
質の高さ」などが挙げられた。逆に、最も低い選別基準として、「ジャーナル
の購読料」、「入選される可能性」などが挙げられた。

 また、論文投稿以外に現行出版システムに関与したかを問う質問には、
約80%がここ1年間で最低1回はジャーナルの査読要員として貢献したと
返答した。現行出版システムによるジャーナルへのアクセスに対する、読者と
しての満足度を調査したところ、61%の回答者が「満足(good)」もしくは
「非常に満足(excellent)」と答え、「不満(poor)」もしくは「非常に不満
(very poor)」と返答したのは10%にすぎなかった。

 Open Accessによる投稿システムについて調査したところ、82%が「全く
知らない(Nothing at all)」もしくは「少しだけ知っている(A little)」
と答え、逆に「既にOpen Accessジャーナルへの投稿経験がある」と答えた
研究者は11%にすぎなかった。また、機関リポジトリに対する調査においては、
21%が「研究論文などを所属機関のリポジトリに提供したことがある」と答え、
55%が「将来提供するかもしれない」、15%が「全く提供するつもりはない」
と返答した。

 以上のような結果から、当レポートでは、「学術ジャーナルの現行システムに
対する研究者の見解は、400年間ほとんど変化していない」とし、研究者による
現行システムへの貢献度、サポートは依然高いと結論付けている。また、近年の
ジャーナルの電子化、出版社によるパッケージ提供などにより、研究者による
論文へのアクセス幅が広がったことが、今回の現行システム寄りの調査結果を
導いた要因の一つであると推測している。

 最近活発に議論されているOpen Accessや機関レポジトリなどの新しい出版
モデルに関しては、研究者の認識度や貢献度が非常に低いことが明らかになった。
Open Accessにおいては、投稿料を支払わなければいけないことに強い嫌悪感を
抱いている研究者も多く、機関レポジトリに対しても、論文を電子化して一ヶ所に
集約してしまうことへの危機感が意見として寄せられた。

 今回の調査結果によれば、商業出版社による論文出版の現行システムは揺るぎ
ないものであるかのように思われるが、研究者による見解がここ10年程度で大きく
推移する可能性も否めない。実際、当レポートでは、35歳以下の若い研究者は、
投稿先を選別するにあたり、インパクトファクターの高さやハードコピーの有無
などを、他の研究者よりもあまり対象基準とせず、Open Accessや機関レポジトリ
に対する支持も比較的高いことが報告されている。一方で、商業出版社に対する
批判的なコメントも多く寄せられており、出版社が提供する付加価値の重要性や、
出版にかかるコストに対する研究者の理解が充分に得られていないことを裏付けて
いる。

 出版システムについて論議する際、高騰する購読料ばかりが問題視され、
読者の立場ばかりが重要視される傾向にあるが、商業出版社による現行システム、
Open Accessなどに代表される新しい出版モデルともに、論文を投稿する研究者への
啓蒙活動が、今後の生き残りにおいて重要な要因となると思われる。

<参考資料>
・Cyberホームページ:
http://ciber.soi.city.ac.uk/virschprojcomdigenv.php

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