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2006/09/30:第167号オープンアクセスをめぐる動向:Nature Publishing Group / American Physical Society
 

オープンアクセスをめぐる動向:Nature Publishing Group / American Physical Society
Nature Publishing Group(NPG)は本年8月,NPGが出版する学会誌(アカデミック・ジャーナル)の
一部を除く25タイトルを,2007年1月よりオープンアクセス化すると発表した(提供タイトルなどの詳細は
本号他稿「Nature Publishing Group:アカデミック・ジャーナルのアーカイブコンテンツをオープン
アクセス化」を参照)。

 オープンアクセス化の対象は2002年12月以前に出版された号であるが,これは,NPGが
サイトライセンスの購読対象とするコンテンツを,契約年を含む過去5年に出版されたものと
したためである。翌年の2008年1月には購読対象期間は2004年以降となり,以後オープンアクセスの
対象期間は年々延びていくことになる。

 NPGは今回の決定は,出版を代行している学会とNPGとの共同でなされたものであると述べており,
出版社が移動した学会誌のアーカイブへの恒久的なアクセスという問題に対し,一石を投じるもので
あるとしている。

 一方,米国物理学会(American Physical Society:APS)は本年8月,同学会が出版するPhysical
Review A-E,Physical Review Letters,Reviews of Modern Physicsの3誌を本年9月より
オープンアクセス化すると発表した。

 同学会が採用するのは“FREE TO READ”と呼ばれるオープンアクセスのモデルで,著者,読者,
施設,基金拠出機関などが,論文に対して特定の料金を支払うことにより,論文単位でオープン
アクセス化するものである。料金の設定は,Physical Review A-E 975ドル,Physical Review Letters
1,300ドルとなっている。また,Reviews of Modern Physicsでは,論文ごとのページ数が多いことや
年間の出版頻度が少ないことから,ケース・バイ・ケースの対応となる。

 このモデルの特徴的な点は,論文をオープンアクセス化するための料金を誰が支払ってもよいと
いうことであり,1893年にさかのぼる全論文が対象となる。

 同学会は,現在の料金設定では既存の購読モデルによる収入を賄えないが,既存の購読料に
追加の収入をもたらす部分であるため,料金はこのモデルの維持が可能なレベルにとどめるつもりで
あると述べている。一方,同学会が直面する重大なリスクとして,このモデルにより非常に多くの
論文がオープンアクセス化されるために,購読数,つまり収入が減少する可能性に触れ,その場合は
旧来の購読モデルに戻らなければならないかもしれないとしている。

 ここに取り上げた2例以外にも,多くの出版社や学会がオープンアクセスの様々な試みを
進めている。今後は商業出版社や学会だけでなく,著者や読者までを含む,学術論文の
ライフサイクルにかかわる全要素を巻き込んだ形で,オープンアクセス化の実験は進められていくと
思われる。提供形態や価格体系のみならず,その背景に存在するリスクを含め,今後の動向を
注視する必要がある。

<参考文献>
・NPGプレスリリース「オンラインアーカイブのオープンアクセス化について」
http://www.nature.com/press_releases/NPG_opens_archives.pdf
・APS「オープンアクセス化へのアナウンスメント」
http://publish.aps.org/OpenAccessAnnounce.html
・APS「FREE TO READ FAQ」
http://publish.aps.org/FREETOREAD_FAQ.html

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