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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/10/29

Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する

論文タイトル
A steady-state pool of calcium-dependent actin is maintained by Homer and controls epithelial mechanosensation
論文タイトル(訳)
Homerがカルシウムイオンによって調節されるアクチン骨格を安定的に保ち、上皮細胞が力を感じ取る仕組みを制御する
DOI
10.1073/pnas.2509784122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.43 e2509784122
著者名(敬称略)
松沢 健司 池ノ内 順一 他
所属
九州大学 大学院医学研究院 生化学分野

抄訳

私たちの体を構成する上皮細胞は、互いに引っ張り合う力のバランスをとることで、組織の形や安定性を保っています。本研究では、神経細胞のシナプス構成要素として知られるタンパク質 Homer が、上皮細胞にも発現しており、力の感知に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。Homerは、細胞同士の接着部でカルシウムイオン(Ca²⁺)シグナルを介してアクチン骨格を安定的に保つことで、細胞が受ける力を感じ取り、その応答を調節していました。Homerを欠損させると、細胞間の張力が弱まり、上皮細胞シートの形態形成や協調的な動きが乱れました。さらに、カエル胚でHomerの機能を阻害すると神経管が正常に閉じなくなり、発生過程にも障害が生じました。これらの結果は、Homerが上皮細胞において、カルシウム依存的な力覚制御を担い、神経管閉鎖などの上皮細胞シートの形態形成に不可欠な分子であることを示しています。

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2025/10/27

シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定

論文タイトル
Identification of CCR4C as a chloroplast-localized NADP(H) phosphatase regulating NAD(P)(H) balance in Arabidopsis
論文タイトル(訳)
シロイヌナズナにおいてNAD(P)(H)バランスを制御する葉緑体局在型NADP(H)ホスファターゼCCR4Cの同定
DOI
10.1073/pnas.2504605122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.42 e2504605122
著者名(敬称略)
明石一樹 川合真紀 他
所属
埼玉大学・大学院理工学研究科
著者からのひと言
葉緑体補酵素のホスファターゼの正体を突き止めることは、長年の念願でした。本研究により、その実体がCCR4Cという新たな酵素であることを明らかにし、葉緑体の代謝バランス制御の理解が一歩進みました。今後、この知見が植物の環境応答や生産性向上の基盤研究へ発展し、持続的な農業や資源利用の一助となることを期待しています。

抄訳

NAD(P)(H)は生物のエネルギー代謝やストレス応答に関わる重要な補酵素である。植物の葉緑体局在型NADキナーゼ(NADK2)は、光合成に必要なNADP⁺を供給する酵素であり、NADK2欠損変異体(nadk2)は成長不良や葉の黄化を示す。本研究ではnadk2の表現型を回復する復帰変異体nkr1の原因遺伝子としてAt3g18500 (CCR4C)を同定した。CCR4Cは葉緑体に局在し、NADP(H)をNAD(H)に変換するホスファターゼ活性を持つことが組換えタンパク質を用いた実験より示された。さらに、ccr4c変異体はNAD(P)(H)バランスの変化と活性酸素ストレスへの耐性を示した。これらの結果から、CCR4C は葉緑体内のNAD(P)(H)バランスを制御する新たな因子であり、植物が光合成やストレス応答をどのように調節しているのかを理解するうえで、重要な知見を与える。

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2025/10/21

HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する

論文タイトル
Hepatitis C virus NS3/4A protease cleaves SPG20, a key regulator of lipid droplet turnover, to promote lipid droplet formation
論文タイトル(訳)
HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する
DOI
10.1128/jvi.00890-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 2025 Sep23: e0089025
著者名(敬称略)
松井千絵子 勝二郁夫 
所属
神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター感染制御学分野
著者からのひと言
HCV は肝細胞内に脂肪滴を貯留させ、HCV複製の場を効率よく形成する。このことから、HCV は感染早期に脂肪滴を積極的に肥大化させて、ウイルス増殖に有利な環境を構築していると推察された。今回我々が、HCV 感染による脂肪滴肥大化機構の一端を解明したことにより、HCV増殖阻害、病態改善へとつながることが期待される。また、HCV感染による脂肪滴肥大化、肝脂肪化や肝発癌の分子機序の解明と制御法開発への発展が期待できる。

抄訳

C型肝炎ウイルス(HCV)は感染すると肝細胞内に脂肪滴の蓄積と肥大化を引き起こし、肝脂肪化の原因となる。また、HCVは脂肪滴近傍の膜で複製することから、HCV増殖および病原性に肝細胞の脂肪滴形成が重要である。しかしながら、HCVによる脂肪滴形成および肥大化の分子機構の詳細は不明な点が多い。本研究では、HCV感染が誘導する脂肪滴肥大化の分子機序を解明するため、脂肪滴調節因子SPG20に着目した。HCV NS3/4AプロテアーゼはSPG20を特異的に切断し、E3リガーゼItchが脂肪滴結合蛋白質アディポフィリン(ADRP)へリクルートされるのを阻害することを見出した。ADRPはItchによるユビキチン依存性蛋白分解を回避し、脂肪滴周囲にとどまることで、細胞内のリパーゼによる脂肪滴分解が回避され、脂肪滴の肥大化が維持されることが示唆された。本研究により、これまで未解明であったHCV 感染による肝細胞の脂肪滴肥大化の分子機構が解明され、HCV増殖抑制、治療薬開発への端緒となることが期待された。

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2025/10/20

Ehg1/May24は高水圧環境下でアミノ酸輸送体の脂質ラフト局在を促進し、その安定化を担う

論文タイトル
Ehg1/May24 stabilizes yeast amino acid permease by facilitating its localization to lipid rafts under high hydrostatic pressure
論文タイトル(訳)
Ehg1/May24は高水圧環境下でアミノ酸輸送体の脂質ラフト局在を促進し、その安定化を担う
DOI
10.1091/mbc.E25-02-0067
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the CellVol. 36, No. 8
著者名(敬称略)
加藤 祐介 阿部 文快 他
所属
青山学院大学理工学部 化学・生命科学科
著者からのひと言
高圧は深海に普遍的に存在する熱力学的な要因ですが、実はヒトの運動時にも、膝や股関節には数百気圧(数十MPa)に達する圧力がかかっています。このような大きな外圧に対して、細胞が分子レベルでどのように応答しているのかについては、いまだ十分に解明されていません。本研究では出芽酵母をモデルとして、小胞体膜タンパク質Ehg1が高圧下でアミノ酸輸送体の機能を維持し、栄養の取り込みと生育を可能にする仕組みを明らかにしました。Ehg1のホモログはヒトにも存在していることから、本研究は細胞が力学的負荷に適応する分子メカニズムの理解を深めるうえで、医学的にも重要な手がかりとなることが期待されます。

抄訳

圧力は化学平衡や反応速度に影響を与える重要な熱力学的パラメータであるが、複雑な細胞内メカニズムへの影響については未だ十分に解明されていない。本研究では、出芽酵母 Saccharomyces cerevisiae の新規小胞体(ER)膜タンパク質Ehg1(別名May24)が、高水圧(約25 MPa)下でトリプトファン輸送体Tat2を安定化させ、細胞増殖を維持する役割を果たすことを明らかにした。Ehg1は表層ER(cER)に局在し、細胞膜上のTat2とin transで物理的に相互作用していた。さらに、Ehg1はTat2を細胞膜のマイクロドメインである脂質ラフトへ効率的に分配させることで、その膜局在を維持する中心的な役割を担っていた。この安定化は、cERと細胞膜の接触に依存しており、高水圧下での栄養源輸送の効率化に不可欠である。実際、こうした接触を欠くΔtether株およびΔ-super-tether株では、Tat2の顕著な不安定化が認められた。これらの知見は、高圧環境下における微生物の栄養輸送体の維持機構を新たに示すものであり、極限環境への微生物適応の理解を深める手がかりとなる。

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2025/10/20

マウス体細胞核移植胚におけるmTORC1によるオートファジーの抑制

論文タイトル
mTORC1-dependent suppression of autophagic activity in somatic cell nuclear transfer mouse embryos
論文タイトル(訳)
マウス体細胞核移植胚におけるmTORC1によるオートファジーの抑制
DOI
10.1530/REP-25-0338
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Reproduction REP-25-0338
著者名(敬称略)
建部 貴輝、井上 貴美子 他
所属
理化学研究所 バイオリソース研究センター(BRC)統合発生工学研究開発室
著者からのひと言
SCNT胚の研究は主に移植核のリプログラミング異常に着目したものが多く、細胞内タンパク質や細胞小器官などの細胞質因子が低発生率に関与しているのかは不明でした。本研究は、SCNT胚のオートファジー活性動態が受精胚を模倣できているのか、発生異常と関連性があるのか明らかにすることを目的としました。この研究では、4細胞期のオートファジー活性がSCNT胚の胚盤胞発生と関連していることが示されました。胚移植の前に良質な胚を選別することで、クローン作出効率の向上が期待されます。

抄訳

体細胞核移植 (SCNT) 技術は移植核と同一のゲノム情報を持つ個体を作出する手法だが、SCNT胚の出生率は5 %未満と非常に低い。本研究ではSCNT胚の低発生効率の原因を明らかにするために、着床前胚発生期に重要な細胞質因子の1つであるオートファジーに着目して研究を行った。蛍光ライブイメージングによるオートファジー活性測定によって、SCNT胚は受精胚と比べ後期2細胞期以降のオートファジー活性が低いことが明らかとなった。さらに、RNA-seq解析によってSCNT胚ではオートファジーを抑制的に制御するmTORC1の異常な活性化が起こっていることが示唆され、mTORC1を阻害することによってSCNT胚のオートファジーを活性化させることに成功した。本研究によって、SCNT胚はエピゲノムだけでなく細胞質因子についても受精胚とは異なる状態にあることが明らかとなり、非ゲノム経路の調節がSCNT研究の新たなアプローチになり得ることが示された。

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2025/10/20

シュードモナス属菌におけるプラスミド分類の現状と課題

論文タイトル
Enhancing plasmid typing with MOB-typer: resolving IncP and other incompatibility group misclassifications in Pseudomonas
論文タイトル(訳)
シュードモナス属菌におけるプラスミド分類の現状と課題
DOI
10.1099/mgen.0.001491
ジャーナル名
Microbial Genomics
巻号
Microbial Genomics Volume 11 Issue 9
著者名(敬称略)
鈴木 仁人、鈴木 治夫、西村 陽介、野尻 秀昭、新谷 政己
所属
国立健康危機管理研究機構 国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター

抄訳

MOB-typerは、プラスミドの複製遺伝子(rep遺伝子)、接合関連遺伝子(mob遺伝子)、および接合形成装置(mpf遺伝子)に基づいて型別を行うツールであり、細菌のゲノム解析で広く利用されている。本論文は、プラスミドの分類手法の歴史的経緯を整理した上で、MOB-typerによるシュードモナス属菌プラスミドのrep分類に誤りがあり、系統的に異なるグループ(IncP-1、IncP-2、IncP-6、IncP-7、IncP-9など)が全て「IncP」と分類され、その誤情報が各種データベースなどを介して拡散している懸念を指摘した。

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2025/10/16

麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する

論文タイトル
Contribution of UbrA, a ubiquitin ligase essential for Arg/N-degron pathway, to peptidase gene expression in Aspergillus oryzae
論文タイトル(訳)
麹菌において Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼ UbrA はペプチダーゼ遺伝子発現に寄与する
DOI
10.1128/aem.00813-25
ジャーナル名
Applied and Environmental Microbiology
巻号
Applied and Environmental Microbiology Ahead of Print
著者名(敬称略)
室町 和花 田中 瑞己 他
所属
東京農工大学大学院 農学研究院 応用生命化学部門
著者からのひと言
麹菌は120個以上のペプチダーゼ遺伝子を有しており、多くのペプチダーゼが発酵産業や食品産業をはじめとする様々な産業分野で利用されています。しかし、その遺伝子発現制御機構は非常に複雑であり、ほとんど解明されていません。本研究では、糸状菌において初めて Arg/N-degron 経路を詳細に解析し、Arg/N-degron 経路に必須なユビキチンリガーゼがペプチダーゼ遺伝子の発現制御に関与していることを明らかにしました。本研究をきっかけに、糸状菌ではこれまで注目されてこなかった Arg/N-degron 経路の代謝や細胞機能の制御における重要性が明らかになると期待されます。

抄訳

細胞内のタンパク質は N 末端アミノ酸に依存して N-degron(N-end rule)経路によって分解される。出芽酵母では、 N-degron 経路の一つである Arg/N-degron 経路が転写抑制因子の分解を介してジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子の発現を制御している。しかし、糸状菌における N-degron 経路についての情報はほとんどなく、真菌の窒素代謝における N-degron 経路の役割は明らかになっていない。本論文では、Arg/N-degron 経路に必須な E3 ユビキチンリガーゼ(UbrA)が麹菌のペプチダーゼ遺伝子発現を制御していることを示した。まず、ユビキチン融合 GFP をレポーターとして用いて、Arg/N-degron 経路が麹菌と出芽酵母で類似していることを明らかにした。麹菌の ubrA を破壊するとジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、主要なペプチダーゼ遺伝子やジペプチドおよびトリペプチドを切り出すペプチダーゼ遺伝子の発現量も減少した。このことから、UbrA がジ・トリペプチドトランスポーター遺伝子だけでなく、その取り込み基質の生成に関与するペプチダーゼ遺伝子の発現も同時に制御していることが示された。

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2025/10/16

エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性

論文タイトル
Molecular insights into nucleocapsid assembly and transport in Marburg and Ebola viruses
論文タイトル(訳)
エボラウイルスとマールブルクウイルスのヌクレオカプシド形成に共通するターゲットを発見—新たな抗ウイルス薬開発の可能性
DOI
10.1128/mbio.01557-25
ジャーナル名
mBio
巻号
mBio Ahead of Print
著者名(敬称略)
高松 由基 他
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 ウイルス学分野
著者からのひと言
先進のライブセルイメージング顕微鏡解析により、エボラウイルスとマールブルクウイルスの共通するヌクレオカプシド形成メカニズムの一端を解明しました。特に、両ウイルスのヌクレオカプシドに会合するウイルスタンパク質VP30の共通モチーフを明らかにしたことで、このモチーフを標的とした新たな治療薬の開発が期待されます。

抄訳

エボラウイルス(EBOV)およびマールブルクウイルス(MARV)はフィロウイルス科に属し、ヒトを含む霊長類に致死的な出血熱を引き起こします。近年も中央アフリカや西アフリカでアウトブレイクを起こしていますが、これらウイルスに対する治療法は十分に整備されていません。
フィロウイルスのヌクレオカプシドは螺旋状のゲノムRNA-ウイルスタンパク質複合体で、ゲノムRNAの転写・複製を担います。本研究では、先進のライブセルイメージング技術を用いて、EBOVとMARVのヌクレオカプシド形成に関わる分子機構を解明しました。転写制御因子として知られるウイルスタンパク質VP30は、両ウイルス間で入れ替えてもヌクレオカプシドとともに機能し、転写・複製活性を発揮することがわかりました。
また、両ウイルスのNPタンパク質のC末端に存在するPPxPxYモチーフが、NP-VP30間の相互作用に不可欠であること、さらにVP30のヌクレオカプシドへの会合にも重要であることを明らかにしました。このモチーフはフィロウイルスで保存されているため、新たな抗ウイルス薬開発の標的となることが示唆されます。
本研究成果は、フィロウイルスのヌクレオカプシド形成機構の理解を深める重要な知見となるとともに、フィロウイルス感染症の新たな治療戦略の開発に寄与するものとなります。

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2025/10/16

日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析

論文タイトル
Draft genome sequences of two strains of Pseudomonas fluorescens sensu stricto isolated from strawberry in Japan
論文タイトル(訳)
日本産イチゴから単離された真のPseudomonas fluorescensPseudomonas fluorescens sensu stricto)のドラフトゲノム解析
DOI
10.1128/mra.00620-25
ジャーナル名
Microbiology Resource Announcements
巻号
Microbiology Resource Announcements Vol. 14, No. 10
著者名(敬称略)
諸星 知広 他
所属
宇都宮大学工学部基盤工学科生物工学研究室
著者からのひと言
Pseudomonas fluorescensは非常に有名な細菌ですが、これまでに報告されたP. fluorescens菌株をゲノムレベルで解析すると、真のP. fluorescensに分類される菌株は1割にも満たないという事実が明らかになりました。P. fluorescensは、環境中ではありふれた細菌と考えられてきましたが、実はかなりマイナーな存在であるということがこの研究から明らかになりました。

抄訳

Pseudomonas fluorescensは、世界中で様々な研究に利用されている細菌である。2025年6月現在、約200株のP. fluorescensのゲノム配列がRefSeqデータベースに登録されているが、平均ヌクレオチド同一性(ANI)で真のP. fluorescensP. fluorescens sensu stricto)と同定された株はわずか9株であり、世界中で利用されてきたP. fluorescensの大部分がP. fluorescens sensu strictoではないことを意味している。本研究では、日本産イチゴから単離されたP. fluorescens sensu stricto の候補であるMAFF 301597株及びMAFF 301598株のドラフトゲノム配列を取得し、P. fluorescens ATCC 13525基準株とのANIを計算したところ、同種と判断できる閾値(95%)を大幅に上回ったため、P. fluorescens sensu strictoに分類できることが実証された。

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2025/10/16

結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化

論文タイトル
Visualization of spin–orbit-entangled 4f electrons in crystalline materials
論文タイトル(訳)
結晶材料中のスピンと軌道がもつれ合う4f電子の可視化
DOI
10.1073/pnas.2500251122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.41 e2500251122
著者名(敬称略)
鬼頭 俊介 他
所属
東京大学大学院新領域創成科学研究科物質系専攻物質系専攻 物性・光科学講座 有馬・徳永研究室
著者からのひと言
物質中における価電子の分布は物性を決める「設計図」のようなものです。今回の研究において、4f電子を直接観測できるようになったことは、磁石や蛍光体の高性能化、量子コンピュータやスピントロニクス素子の開発など、次世代技術の基盤に大きなインパクトを与える成果です。

抄訳

ランタノイドにおける4f電子の異方的な空間分布は、磁性から量子現象に至るまで、さまざまな材料特性を支配する上で重要な役割を担っている。しかし、その顕著な異方性と微弱な信号ゆえに、4f電子の可視化は長らく大きな課題とされてきた。本研究では、高エネルギーX線回折と独自に開発した価電子密度解析を組み合わせた革新的アプローチを導入することで、パイロクロア酸化物中における4f電子分布の直接観測を実現した。この成果は、4f電子の本質的な性質を明らかにするだけでなく、幅広い物質系における4f電子の役割を探求する新たな道を開き、材料科学の革新へとつながるものである。

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