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2024/07/01

ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020

論文タイトル
Whole-genome analysis of human group A rotaviruses in 1980s Japan and evolutionary assessment of global Wa-like strains across half a century
論文タイトル(訳)
ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020
DOI
10.1099/jgv.0.001998
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Journal of General Virology Volume 105, Issue 6
著者名(敬称略)
福田 裕也 他
所属
札幌医科大学 医学部 小児科学講座
著者からのひと言
ロタウイルスワクチンが普及したことによりロタウイルス胃腸炎患者は激減しました。しかし、我々のようにワクチン導入前後約50年という長い期間で世界中のロタウイルス全11遺伝子分節の分子進化を検討した報告はありません。本論文ではロタウイルスワクチンの普及がWa-likeロタウイルスの分子進化に影響を与えているという確たる証拠を提示することはできませんでしたが、世界中の2010年代以降の株が一つの系統に収束する傾向にあるという興味深い結果が得られました。ロタウイルスがワクチンから逃避しようとした結果を反映している可能性はあり、今後もロタウイルス陽性検体の解析を地道に続けていくことで明らかになるかもしれません。

抄訳

2006年に世界でロタウイルス(RV)ワクチンが導入される以前、Wa-like株はヒトでの胃腸炎流行の主要な遺伝子型であったが、RVワクチンの普及により、それ以外の遺伝子型の流行も見られるようになった。RVワクチンの導入を経たRVの分子進化を理解するためには、現在および過去の株のゲノム情報を併せて評価する必要がある。我々は、1981-1989年に札幌乳児院で見られた6つのWa-like RVの流行で採取された便検体の全ゲノム解析を行い、それらのゲノム情報を含めて1974-2020年の世界のWa-like RVの分子疫学的検討を行った。系統樹解析では、2000年代までの株が複数の系統に分かれた一方、2010年代以降の株はRVワクチン株とは異なる一つの系統に収束する傾向にあることがわかった。VP7 (G1), VP4 (P[8])タンパクにおいて、主な2010年代の株の属する系統は、既知の中和エピトープにRVワクチン株とは異なるアミノ酸を特異的に有していた。しかし,Bayesian Skyline plotでの有効個体数は1970-2020年の間ほぼ一定で、RVワクチン導入前後で大きな変化はなく、ワクチン導入がWa-like RVの分子進化に影響を与えているという証拠は得られなかった。2022年時点で世界のRVワクチン接種率は51%程度であり、RVワクチン導入による影響を評価するには,より長期の分子疫学的検討が必要である。

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