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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2025/01/17

レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常 New

論文タイトル
A pontine-medullary loop crucial for REM sleep and its deficit in Parkinson’s disease
論文タイトル(訳)
レム睡眠に重要な役割を果たす脳幹神経回路の同定と、パーキンソン病におけるその回路の異常
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.046
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 22
著者名(敬称略)
林 悠、柏木 光昭 他
所属
東京大学, 大学院理学系研究科 生物科学専攻 筑波大学, 国際統合睡眠医科学研究機構

抄訳

ヒトは睡眠中、レム睡眠とノンレム睡眠という異なる2つのステージを交互に繰り返す。レム睡眠は、鮮明な夢をしばしば伴うことから、一般社会でも注目されてきたが、レム睡眠がどのような仕組みで生じるのかは大きな謎であった。 また、最近の疫学研究によると、レム睡眠の異常はさまざまな疾患や心身の不調の前兆であることも明らかとなってきた。特に近年、パーキンソン病の前駆症状として、レム睡眠行動障害が注目されている。レム睡眠行動障害では、レム睡眠中に本来起こるはずの筋脱力に異常が生じた結果、夢の内容を反映した発声や体動が出現する。パーキンソン病では、レム睡眠行動障害に加え多くの患者で疾患が進むにつれてレム睡眠そのものが失われていく。しかしながら、その原因となる神経メカニズムもまたわかっていなかった。 今回、私たちはマウスを用いて世界で初めてレム睡眠に中枢的な役割を果たす脳幹の神経回路を明らかにした。また、同定した神経回路を構成する特定の神経細胞群が、レム睡眠行動障害を伴うヒトのパーキンソン病患者の死後脳において特異的に脱落していることも発見し、レム睡眠行動障害の原因の一端を明らかにした。

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2025/01/14

マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射

論文タイトル
Common Carotid Artery Isolation and Intracarotid Injection for Intraarterial Delivery in Mice
論文タイトル(訳)
マウスにおける動脈内薬剤投与のための総頸動脈の剥離と内頸動脈内注射
DOI
10.3791/201638-v
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments(JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (205), e66303
著者名(敬称略)
Daniel Ledbetter 清水 勇三郎 他
所属
順天堂大学医学部付属順天堂医院 脳神経外科

抄訳

悪性脳腫瘍に対する経動脈的薬剤投与法の開発のため、マウスモデルを使用した頸動脈内注射法が行われてきた。従来法は、薬剤を総頸動脈(CCA)に穿刺注入したあとCCAを結紮するため、頸動脈注射は1回だけに制限されていた。本研究では、CCAを穿刺後に修復し、その後の再注射を可能にする方法を開発した。注射の際には、外頸動脈に縫合糸を巻き付けた後に針をCCAに挿入し注入することで、治療薬は内頸動脈に送達される。CCA内注射の後に注射部位を縫合修復することで、CCA内の血流を回復させ、一部のマウスモデルで観察される脳虚血の合併症を回避することができる。また、頸動脈内注射による骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(BM-hMSCs)の投与の実験で、注射部位修復の有無による頭蓋内腫瘍への投与効果を比較した。BM-hMSCsの投与は、いずれの方法でも有意な差は認めなかった。その結果、CCAの注射部位を修復することで、同じ動脈から繰り返し注射を行うことが可能となり、注入物質の分布や到達に影響を及ぼさないことが示された。これにより、柔軟性のあるモデルが提供され、ヒトにおける頸動脈内注射をより正確に再現することが可能となった。

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2024/12/25

ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である

論文タイトル
Neoself-antigens are the primary target for autoreactive T cells in human lupus
論文タイトル(訳)
ネオセルフは全身性エリテマトーデスにおける自己応答性T細胞の主要な標的抗原である
DOI
10.1016/j.cell.2024.08.025
ジャーナル名
Cell
巻号
Volume 187, Issue 21
著者名(敬称略)
筆頭著者:森 俊輔、連絡著者:荒瀬 尚
所属
大阪大学 免疫学フロンティア研究センター 免疫化学研究室
著者からのひと言
従来の免疫学における基本概念では、T細胞が自己(セルフ)と病原体などの異物(ノンセルフ)を識別することとされてきました。しかし、この考え方だけでは、自己に対する免疫応答である自己免疫疾患を十分に説明することはできません。この論文は、T細胞がセルフと異常な自己抗原であるネオセルフを識別し、ネオセルフに対する免疫応答が自己免疫疾患の引き金となることを明らかにしました。この研究により、長年謎であった自己免疫疾患の病態が解明されるとともに、T細胞の新しい認識機構が発見されました。

抄訳

MHCクラスII(MHC-II)は全身性エリテマトーデス(SLE)の疾患感受性における最も強力な遺伝的要因であるが、どのような自己抗原がMHC-II分子に提示され自己免疫疾患の標的となるかは不明である。インバリアント鎖は、MHC-IIのペプチド抗原提示に必須の分子であるが、インバリアント鎖非存在下ではネオセルフと総称される異常な自己抗原がMHC-II上に提示される。我々は、ネオセルフがSLEでクローン増殖した自己応答性T細胞の主要な標的抗原であることを発見した。成熟マウスにおいてインバリアント鎖を低下させネオセルフの提示を誘導すると、ネオセルフ反応性T細胞が増殖し、ループス様の自己免疫疾患を発症した。さらに、SLE患者でもネオセルフ反応性T細胞が有意に増殖していることが判明した。高頻度のEBウイルス再活性化はSLEの環境的危険因子であることが報告されている。SLE患者の自己応答性T細胞は、EBウイルス再活性化によりインバリアント鎖が低下し提示されたネオセルフに反応し活性化された。これらの結果は、MHC-IIによるネオセルフ提示がSLEの発症に重要な役割を果たしていることを示している。

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2024/12/17

ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する

論文タイトル
Ovine conceptuses express phospholipase inhibitory genes on days 14-15 of pregnancy, interacting with IFNT pathways
論文タイトル(訳)
ヒツジ受胎産物は妊娠14–15日目にリン脂質分解阻害遺伝子を発現し、IFNT経路と相互作用する
DOI
10.1530/REP-24-0286
ジャーナル名
Reproduction
巻号
Accepted Manuscripts REP-24-0286
著者名(敬称略)
松野 雄太 今川 和彦 他
所属
東海大学 総合農学研究所
著者からのひと言
本研究では、ヒツジ受胎産物において着床前の時期特異的に高発現する未知遺伝子の中から、分泌型のリン脂質分解阻害活性ドメインを有する遺伝子を発見しました。リン脂質は着床制御に重要なプロスタグランジン類の産生経路です。今後、本研究で同定したリン脂質分解阻害遺伝子と子宮内のプロスタグランジンの産生制御との関連性を探っていきたいと考えています。

抄訳

本研究は、ヒツジの受胎産物と子宮内膜の相互作用に関与する新規分泌タンパク質の特定を目的とした。妊娠12、14、15、16、17、19、20、21 日目のヒツジ受胎産物のRNAシーケンスデータを解析し、発現量が高いが機能が解明されていない遺伝子に着目し、in silicoによるタンパク質機能解析を実施した。その結果、妊娠14-15日目にリン脂質分解阻害タンパク質をコードする遺伝子が高発現することを同定した。この遺伝子の組換えタンパク質を作製し、ウシ子宮内膜細胞の初代培養系とRNAシーケンス解析を用い、リン脂質分解阻害タンパク質が子宮内膜に及ぼす影響を解析した。その結果、インターフェロンタウ関連経路の遺伝子発現に影響を及ぼした。これらの結果から、これまで多数同定された因子に加えて、リン脂質分解阻害タンパク質が受胎産物と子宮内膜間の相互作用に関わる新たな候補分子であることが示唆された。

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2024/12/16

ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割

論文タイトル
Position-dependent roles of somatic cells in phototaxis of Volvox
論文タイトル(訳)
ボルボックスの走光性における位置に依存した体細胞の役割
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae444
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 10
著者名(敬称略)
原田 啓吾、村山 能宏 他
所属
東京農工大学工学部生体医用システム工学科

抄訳

緑藻の一種であるボルボックスは明るい方へ移動する正の走光性を示します。ボルボックスには細胞間の複雑な情報伝達機構は備わっておらず、個体の走光性は「暗から明の照度変化に対する鞭毛運動の一時停止」という個々の細胞のシンプルな応答により実現されています。さらに、ボルボックスは周囲の明るさに応じて走光性の感度を変えることができます。しかし、この感度調節機構が体細胞に備わっている機構であるのか、細胞集合体として個体に現れる性質なのかは定かでありませんでした。本論文では、感度調節機構が細胞に備わる性質であることを明らかにするとともに、感度の高い細胞を前方に、低い細胞を後方に配置させることで、個体の動きの巧妙な制御を実現している可能性があることを示しました。本研究で発見された位置に依存した細胞の性質の違いは、細胞の機能分化と多細胞化の関係や、細胞数に応じた生物の生存戦略という観点からも興味深い結果といえます。また、単純な機構で高度な機能が創発するしくみは、マイクロロボットや自動制御システムの開発への応用が期待されます。

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2024/12/16

環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類

論文タイトル
A complete classification of evolutionary games with environmental feedback
論文タイトル(訳)
環境フィードバックを考慮した進化ゲーム理論の完全な分類
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae455
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
伊東 啓、山道 真人
所属
長崎大学 熱帯医学研究所 環境医学部門 国際保健学分野
所属
国立遺伝学研究所
著者からのひと言
環境保全や天然資源の持続可能な管理、抗菌薬の過剰使用と病原体の薬剤耐性化、感染症の拡散とワクチン接種行動など、個々人の行動によって人々を取り巻く環境が変化し、環境の変化によって個人の行動がさらに影響されるような環境フィードバックが、今まさに起こっています。この研究が、環境と人間の行動が相互に影響を与え合う状況の理解に役立ち、両者を望ましい方向へ導くための土台となると期待しています。

抄訳

個人が自身の利益を追求する合理的な行動によって共有資源が枯渇する現象は「コモンズの悲劇」と呼ばれ、ゲーム理論における重要な研究テーマとなっている。コモンズの悲劇を理解するために、個人の行動が環境中の資源量を変え、その資源量の変化が個人の利益に影響する「フィードバック進化ゲーム」の枠組みが最近提唱されたが、資源が豊富な状況において、非協力者が常に増加する「囚人のジレンマ」ゲームにのみ焦点が当てられていた。本研究では、囚人のジレンマ以外の3つのゲーム(チキン・スタッグハント・トリビアル)を含む動態を解析し、完全な分類を行った。さらに、ジレンマ位相平面を用いてゲーム構造の変化を明らかにした。その結果、多様な初期値依存性(双安定性)が生じること、チキン・スタッグハントゲームが周期的な振動を引き起こすことを明らかにした。本研究は、環境フィードバックを含むゲーム理論をさらに拡張していく上で重要なステップとなる。

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2024/12/16

UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構

論文タイトル
Substrate binding and catalytic mechanism of UDP-α-D-galactofuranose: β-galactofuranoside β-(1→5)-galactofuranosyltransferase GfsA
論文タイトル(訳)
UDP-α-D-ガラクトフラノース: β-ガラクトフラノシド β-(1→5)-ガラクトフラノース転移酵素 GfsA の基質結合と触媒機構
DOI
10.1093/pnasnexus/pgae482
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 3, Issue 11
著者名(敬称略)
岡 拓二、角田 佳充 他
所属
崇城大学 生物生命学部 生物生命学科
著者からのひと言
GfsAの立体構造は、真核生物由来のガラクトフラノース転移酵素として世界で初めて解明されました。GfsAの触媒部位を選択的に阻害する化合物は、細胞壁を弱体化させることで、新規の作用機序を持つ抗真菌薬として利用できる可能性があります。さらに、GfsAは糸状菌に広く保存された酵素であり、肺アスペルギルス症だけでなく、その他の真菌感染症の治療薬や植物病に対する農薬の開発にも繋がることが期待できます。

抄訳

糖転移酵素は複雑な糖鎖を合成する酵素であり、細胞において重要な役割を果たしています。糸状菌はガラクトフラノースという珍しい糖を含む糖鎖を合成し、それを細胞壁に組み込んでいます。GfsAは、糖鎖の非還元末端側のβ-ガラクトフラノース残基の5位の水酸基にUDP-α-D-ガラクトフラノースからβ-ガラクトフラノースを転移する酵素です。本研究では、肺アスペルギルス症を引き起こすAspergillus fumigatus由来のGfsAの基質結合構造と触媒機構を解明しました。マンガンイオン (Mn²⁺)、糖供与基質の生成物 (UDP)、および受容基質 (β-ガラクトフラノース) を含む複合体構造を明らかにしました。GfsAは、糖転移酵素に典型的なGT-Aフォールドドメインに加え、N末端およびC末端によって形成される独自のドメインを持っていました。N末端は他のGfsAのGT-Aドメインと相互作用し、二量体を形成していました。Mn²⁺、UDP、およびβ-ガラクトフラノースを含む活性中心は溝状の構造を形成しており、この構造は他の真菌類由来のGfsAにおいて高度に保存されていました。本研究は、ガラクトフラノース糖鎖合成の理解に必要な基礎的知見を提供し、将来的な新規抗真菌薬の開発に貢献する可能性があります。

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2024/12/13

全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価

論文タイトル
Rapid Glyco-Qualitative Assessment of Recombinant Proteins Using a Fully Automated System
論文タイトル(訳)
全自動システムによるリコンビナントタンパク質の迅速糖鎖品質評価
DOI
10.3791/66571
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (208), e66571
著者名(敬称略)
布施谷 清香 久野 敦 他
所属
産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門 分子細胞マルチオミクス研究グループ
著者からのひと言
従来、糖鎖分析は多くの時間と手間を要し、基本的に手作業で行われていました。しかし、新しいシステムの導入により、全自動での分析が可能となり、糖鎖の構造や修飾を効率的に識別し、短時間でタンパク質の質的特徴を評価できるようになりました。このシステムは、組換えタンパク質の製造過程における品質管理の向上や、製造プロセスの最適化に大きく貢献することが期待されます。

抄訳

タンパク質のグリコシル化は、重要な翻訳後修飾であり、バイオ医薬品を含む組換えタンパク質の安定性、有効性、免疫原性に影響を与える。糖鎖構造は、生産細胞の種類、培養条件、精製方法によって異なる大きな不均一性を示すため、組換えタンパク質の糖鎖構造のモニタリングと評価は非常に重要である。加えて、産業界で適応させるためには、自動化されたハイスループットな手段が必要である。そこで、「bead array in a single tip (BIST)」技術のコンセプトを活用して世界初の全自動レクチンベースの糖鎖プロファイリングシステムを開発した。本システムでは、糖鎖を認識するレクチン固定化ビーズをそれぞれ1,000個単位で調製・保存することができ、様々な目的に合わせてチップを作製、カスタマイズ可能である。システムの汎用性を高めるため、N型糖鎖やO型糖鎖を認識する15種類のレクチンを選択し、内包したチップを「標準GlycoBISTチップ」と名付けた。本システムの信頼性は再現性試験や長期保存試験を通じて確認され、さらにサンプルのラベリングプロセスを最適化し、全体の処理時間を30分短縮した。また、データの視認性向上のために、レクチン結合シグナルは機器モニターにドットコードとして表示される。このユーザーフレンドリーで迅速な糖鎖分析装置は、糖質科学に馴染みのない研究者による分析を容易にし、実用的な有用性を広げることが期待される。

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2024/12/09

覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測

論文タイトル
Electroencephalography Measurements in Awake Marmosets Listening to Conspecific Vocalizations
論文タイトル(訳)
覚醒コモンマーモセットにおける同種他個体の鳴き声を聴いている間の頭皮上脳波計測
DOI
10.3791/66869
ジャーナル名
Journal of Visualized Experiments (JoVE)
巻号
J. Vis. Exp. (209), e66869
著者名(敬称略)
鴻池 菜保 中村 克樹 他
所属
京都大学ヒト行動進化研究センター 高次脳機能分野/認知神経機構学分科 京都大学白眉センター
著者からのひと言
サルの頭皮上から脳波を計測して、主に聴覚情報処理にかかわる神経メカニズムを明らかにする一連の研究を開発者の新潟大学脳研究所の伊藤浩介先生とともに実施してきました。今回は、実際の計測手法を動画形式で示すことにより、興味をもった方に実際に試していただけるように工夫しました。是非、ご覧ください!

抄訳

我々は南米原産の小型霊長類であるコモンマーモセットを対象として、覚醒状態で頭皮上に設置した電極から脳活動を非侵襲的に記録する手法を開発した。本手法は、非侵襲的であり動物に負担をかけず、麻酔することなく、覚醒状態の動物から長期的な脳活動の計測が可能であるという利点がある。この手法を用いて、音声処理脳内メカニズムを理解することを目的として、9頭のマーモセットから脳波を計測し、マーモセット特有の鳴き声を聴かせている間の事象関連電位と時間周波数マップを得た。その結果、脳活動の周波数特性とその変化が年齢によって変化することが明らかになった。本手法を用いれば、音声コミュニケーションが豊富なマーモセットのデータとヒトの頭皮上脳波データの直接比較が可能となり、言語や音声処理の進化的視点に立った研究に取り組むことが可能となる。動画では、動物のハンドリング、事前の馴致訓練、脳波計測実験の各プロトコールを紹介している。

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2024/12/04

深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案

論文タイトル
Fidelibacter multiformis gen. nov., sp. nov., isolated from a deep subsurface aquifer and proposal of Fidelibacterota phyl. nov., formerly called Marine Group A, SAR406 or Candidatus Marinimicrobia
論文タイトル(訳)
深部帯水層から単離された新属新種バクテリアFidelibacter multiformis、及び、候補門Marine Group A(または、SAR406、Marinimicrobia)改め新門Fidelibacterotaの提案
DOI
10.1099/ijsem.0.006558
ジャーナル名
International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology
巻号
Volume 74 Issue 10
著者名(敬称略)
片山 泰樹
所属
産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地圏資源環境研究部門 地圏微生物研究グループ
著者からのひと言
原核生物の大多数は人工的な培地上で培養できず、性質も未解明である。我々は4年の歳月をかけて門レベルで新しいバクテリアIA91株を分離培養した。培養試験により、自身の増殖に不可欠な細胞壁の合成を他の細菌から放出される細胞壁断片に委ねるという教科書レベルの常識を覆す特徴と、微生物同士の新奇な相互作用が明らかとなった。未培養微生物の魅力と培養手法の重要性を端的に示している。

抄訳

グラム陰性、絶対嫌気性、化学従属栄養細菌IA91株が、日本の深部帯水層の堆積物と地層水から分離培養された。IA91株は、増殖する他の細菌から放出される細胞壁断片ムロペプチドを、自身の細胞壁ペプチドグリカン、エネルギー源、炭素源として利用し、細胞壁の形成、増殖、更には細胞の形状に至るまで他の細菌に依存した。 IA91株細胞は桿状であるが、他の細菌に由来するムロペプチドがない場合あるいは枯渇すると球状に変化し、やがて死滅した。IA91株は非常に限られた基質、酵母エキス、ムロペプチド、D-乳酸のみを利用し増殖した。酵母エキス分解の主な最終生成物は酢酸、水素、二酸化炭素であった。水素を除去するメタン生成古細菌との共培養はIA91株の増殖を強く促進した。16S rRNA遺伝子、及び、保存タンパク質配列に基づく分子系統解析の結果、IA91株は培養株の存在しない候補門Marine Group A(またはSAR406、Ca. Marinimicrobia)に属することが示された。表現型および系統学的特徴に基づき、IA91株を新属新種Fidelibacter multiformis、新科Fidelibacteraceae、新目Fidelibacterales、新綱Fidelibacteria、新門Fidelibacterotaとして提案した。

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