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国内研究者論文紹介

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ユサコでは日本人の論文が掲載された海外学術雑誌に注目して、随時ご紹介しております。

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2024/07/12

ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性

論文タイトル
Unraveling emergent network indeterminacy in complex ecosystems: A random matrix approach
論文タイトル(訳)
ランダム行列の観点から解き明かす複雑な生態系における創発的ネットワーク不確定性
DOI
10.1073/pnas.2322939121
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Vol. 121 No. 27
著者名(敬称略)
川津 一隆
所属
東北大学 大学院生命科学研究科
著者からのひと言
「風が吹けば桶屋が儲かる」は因果の連鎖が意外な結果を引き起こすことの例えとしてよく知られています。ですが、実生活でこのような体験が頻繁に起こることはないのではないでしょうか?本研究では「桶屋が儲かる」が事前に分かる条件、すなわち「どんなネットワークでどんな風が吹いたか」を理論的に明らかにしたもので、生態学のみならず人間社会全般でインパクトを与える結果になると考えています。

抄訳

第三者を介した間接的な相互作用は、「敵の敵は味方」のように、直接的な種間関係からは予期できない結果を引き起こす。特に、複雑なネットワークでは、膨大な数になる間接効果が撹乱の影響を予測困難にすると考えられてきた。しかしながら、このネットワーク不確定性がどのような生態系で生じるかについてはほとんど分かっていなかった。そこで著者はランダム行列理論と呼ばれる数学理論を応用し、多様な種間関係のバランスが不確定性を創発する鍵であることを世界で初めて明らかにした。具体的には、不確定性は上位捕食者が卓越する食物網で一般的なのに対し、従来の予測に反して競争/協力関係を多く擁する群集では起こりにくいことが分かった。本研究で提示した生態系応答の予測可能条件は、生物多様性保全に重要な示唆を与えるほか、結果から因果関係を推定するネットワーク同定の逆問題にも応用でき、医学などの他分野への貢献も期待される。

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2024/07/10

酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する

論文タイトル
Yeast Rim11 kinase responds to glutathione-induced stress by regulating the transcription of phospholipid biosynthetic genes
論文タイトル(訳)
酵母Rim11キナーゼはリン脂質生合成遺伝子の転写量を制御することでグルタチオン誘導ストレスに応答する
DOI
10.1091/mbc.E23-03-0116
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 1
著者名(敬称略)
安川 泰史 野田 陽一 他
所属
安川 泰史:三菱商事ライフサイエンス株式会社
野田 陽一:東京大学大学院 農学生命科学研究科・応用生命工学専攻
著者からのひと言
この論文は、代表的な抗酸化物質であるグルタチオン(GSH)の量が、細胞内で一定の範囲内で制御される仕組みの解明に迫るものです。出芽酵母を用いた類似の先行研究では、過剰量のGSHで還元ストレスと増殖遅延が引き起こされ、その後小胞体ストレス応答(UPR)によって増殖が回復することが報告されています(C. Kumar, 2011)。今回興味深いことに、Rim11がUPRとは別経路で機能することも分かりました。システイン化合物であるGSHを細胞がどのようにして「手なずけている」のか、このメカニズムの解明は、GSH高生産細胞の作出にも応用できると期待されます。

抄訳

グルタチオン(GSH)はγ-Glu-Cys-Glyで構成され、活性酸素種の消去や蛋白質の立体構造化に関与する。GSH欠乏の報告は多数存在する一方、高レベルのGSHに対する細胞生理学的研究は少ない。本研究では、S. cerevisiaeにGSH膜輸送体Hgt1経由で過剰量のGSHを細胞内に流入させ増殖遅延を誘導し(この状態をGSHストレスと定義する)、この遅延を抑圧する多コピーサプレッサーをゲノムワイドに探索した。その結果、糖飢餓応答因子として知られるリン酸化酵素RIM11が取得された。表現型解析の結果、RIM11が自己リン酸化活性を通じてGSHストレス応答で機能することを見出した。次にRNA-seq解析より、糖濃度の感知に関わるHXT1/2(低/高親和性ヘキソース輸送体)およびリン脂質生合成遺伝子の転写量が、Rim11活性に正に依存する知見を得た。さらにリピドミクス解析より、GSHストレス誘導によってホスファチジルコリン/セリン/エタノールアミンが減少し、ホスファチジルイノシトールは増加した。ここにRIM11を過剰発現させると、これらリン脂質が一様に増加に転じ、GSHストレスを抑圧する効果が見られた。しかし,RIM11 K68Aの過剰発現では、この効果は得られなかった。以上より我々は、Rim11が糖飢餓応答を活性化させ、GSHストレス誘導によるリン脂質構成の不均衡を部分的に解除することで、GSHストレスを減弱化させるモデルを提唱する。

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2024/07/10

頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症に対する最適な治療手技

論文タイトル
Optimal endovascular therapy technique for isolated intracranial atherothrombotic stroke-related large vessel occlusion in the acute to subacute stage
論文タイトル(訳)
頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症に対する最適な治療手技
DOI
10.3174/ajnr.A8399
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology July 2024
著者名(敬称略)
別府 幹也 内田 和孝 他
所属
別府 幹也:済生会野江病院
内田 和孝:兵庫医科大学 脳神経外科
著者からのひと言
現時点では、ICAD-LVOに対する最適な治療手技は確立していません。一方、機械的血栓回収のみでは、すぐに再閉塞をきたす症例を経験することもあります。本研究は、GP IIb/IIIa阻害薬が未承認である我が国においてのリアルワールドの結果を反映していると考えています。この研究結果が臨床医の一助になれば幸いです。

抄訳

背景と目的
欧米と比較し頻度の高い頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症(ICAD-LVO)に対する血管内治療 (EVT)は、機械的血栓回収術 (MT)無効例が多く、開通しても早期再閉塞率が高いため、最適な治療手技は確立していない。本研究では、日本国内において、頭蓋内動脈硬化性脳主幹動脈閉塞症(ICAD-LVO)に対する最適な血管内治療 (EVT)検討した。
方法と対象
2017年1月から2019年12月の間、国内51施設で行われた多施設共同観察研究で、Tandem Groupを除く509例を対象とした。EVT治療手技を、MT単独 (MT-only)、経皮的血管形成術 (PTA)、ステント留置術 (Stent)の3群に分類した。EVT中に一度でもPTAを施行した群はPTA群、手技中にStentを留置した群はStent群に分類した。主要評価項目は、EVT後90日以内の治療血管の再閉塞、副次評価項目は治療直後の再開通率、90日後の転帰、90日以内の頭蓋内出血とした。
結果
MT-only群(207例)、PTA群(226例)、Stent群(76例)に分類し比較検討した。患者背景は心不全の既往や、M2閉塞はMT-only群で多く、VA閉塞は、Stent群で多かった 。抗血小板薬は、発症後、特に治療中に抗血小板薬を追加した症例がPTA群、Stent群で多かった。70%以上の残存狭窄は、MT-only群で多く、術中合併症は、PTA群、Stent群で多かった。主要評価項目である再閉塞は、MT-only群で多く、MT-only群に対するPTA群の調整ハザード比は0.48(95%信頼区間0.29–0.80)であった。また再閉塞患者の83.5%は、治療10日以内に再閉塞し、特に62%の患者は治療2日以内に再閉塞を認めた。副次評価項目である治療直後のTICI 2b以上の有効再開通率は、PTA群、Stent群で高く、90日後の転帰や頭蓋内出血は、3群間で有意差がなかった。
結語
ICAD-LVOに対するEVTにおいて、PTA群は有意に再閉塞率が低かった。GP IIb/IIIa阻害薬が未承認である我が国において、ICAD-LVOと診断した場合は、PTAが第一選択肢になり得る。また、再閉塞患者の62%は、2日以内に再閉塞するため、ICAD-LVOを疑えば、できるだけ早期に抗血小板薬を開始することが望まれる。

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2024/07/03

転位のない上腕骨遠位端骨折後の遅発性無腐性壊死

論文タイトル
Delayed avascular necrosis after non-displaced distal humerus fracture
論文タイトル(訳)
転位のない上腕骨遠位端骨折後の遅発性無腐性壊死
DOI
10.1136/bcr-2024-260607
ジャーナル名
BMJ Case Reports
巻号
BMJ Case Reports Vol.17 Iss.6 (2024)
著者名(敬称略)
高木 岳彦
所属
国立成育医療研究センター 整形外科
著者からのひと言
上腕骨顆上骨折をはじめとする上腕骨遠位端骨折後では転位がほとんどないにもかかわらず、疼痛を伴う上腕骨遠位の無腐性壊死が受傷後数年で発生することがあり注意が必要です。転位がなくても関節包の拡張に伴う遠位骨片の圧迫により血液供給が障害されることで、成長段階で骨化が始まる時期に疼痛を伴う壊死が発生するとされていますが、壊死による激痛があっても、時間の経過とともに痛みが徐々に軽減するため、経過観察で十分な場合があります。

抄訳

転位がほとんどないにもかかわらず上腕骨顆上骨折後数年の経過で誘因なく疼痛が生じ、上腕骨遠位の無腐性壊死が認められた症例を経験したので、その臨床的特徴について述べる。
本症例は6歳頃にすべり台から転落し、上腕骨顆上骨折をきたしたが転位がほとんどないため、3週間の外固定ののち可動域訓練を開始し、受傷後3ヵ月で疼痛、可動域制限なくフォロー終了となった。ところが約5年後に外傷歴がないにも関わらず肘の激痛が生じ、単純X線像やMRIにて、上腕骨遠位の中央部分に不整像を認め、経過と共にfish-tail変形と呼ばれる円形の欠損像がみられるようになった。徐々に疼痛は軽減し、発症から約3年半で可動域制限、疼痛は消失し現在に至っている。
転位のない上腕骨遠位端骨折でも関節包の拡張に伴う遠位骨片の圧迫により血液供給が障害され、成長期に骨化が始まると疼痛を伴う壊死を生じることがあるので注意が必要である。

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2024/07/01

VAMP5はマクロファージおけるFcγ受容体依存性ファゴサイトーシスを促進し、形成されたファゴソームの成熟反応を制御する

論文タイトル
VAMP5 promotes Fcγ receptor-mediated phagocytosis and regulates phagosome maturation in macrophages
論文タイトル(訳)
VAMP5はマクロファージおけるFcγ受容体依存性ファゴサイトーシスを促進し、形成されたファゴソームの成熟反応を制御する
DOI
10.1091/mbc.E23-04-0149
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 3
著者名(敬称略)
櫻井 千恵 初沢 清隆 他
所属
鳥取大学 医学部 生命科学科 分子生物学分野
著者からのひと言
本論文は、細胞膜に局在するSNAREタンパク質の1つVAMP5が、Fcγ受容体依存性ファゴサイトーシスの制御を担うことを初めて示したものです。具体的には、VAMP5はファゴソーム形成を促進するだけでなく、ファゴソームからの速やかな解離によってファゴソーム成熟を制御すること、また、この解離はVAMP5の特定アミノ酸配列およびクラスリンとダイナミンの活性依存的に起こることを明らかにした論文です。

抄訳

細胞膜局在のSNAP23(synaptosomal-associated protein of 23 kDa)は膜融合装置SNAREタンパク質の一つであり、Fcγ受容体依存性ファゴサイトーシスに機能する。一方、細胞膜局在SNAREタンパク質であるVAMP5(vesicle-associated membrane protein 5)は、SNAP23との相互作用は知られているがファゴサイトーシスにおける機能は不明である。 本研究では、VAMP5を過剰発現あるいは発現抑制したマクロファージの解析から①VAMP5はファゴソーム形成に機能すること、また、②VAMP5とSNAP23はともに形成されたファゴソームに局在化するが、SNAP23とは異なりVAMP5は早い段階でファゴソームから解離することを見出した。また、③このVAMP5の解離はクラスリンとダイナミンの活性依存的であり、④VAMP5の解離阻害はSNAP23の立体構造に影響を与えファゴソーム成熟化が遅延することがわかった。 以上から、VAMP5を介するメンブレントラフィック機構が、自然免疫の最前線のファゴサイトーシス反応の厳密な制御に寄与することが明らかになった。

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2024/07/01

ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020

論文タイトル
Whole-genome analysis of human group A rotaviruses in 1980s Japan and evolutionary assessment of global Wa-like strains across half a century
論文タイトル(訳)
ロタウイルスワクチン導入を経た50年間の世界のWa-like G1/G3ロタウイルス分子進化の概要:1974-2020
DOI
10.1099/jgv.0.001998
ジャーナル名
Journal of General Virology
巻号
Journal of General Virology Volume 105, Issue 6
著者名(敬称略)
福田 裕也 他
所属
札幌医科大学 医学部 小児科学講座
著者からのひと言
ロタウイルスワクチンが普及したことによりロタウイルス胃腸炎患者は激減しました。しかし、我々のようにワクチン導入前後約50年という長い期間で世界中のロタウイルス全11遺伝子分節の分子進化を検討した報告はありません。本論文ではロタウイルスワクチンの普及がWa-likeロタウイルスの分子進化に影響を与えているという確たる証拠を提示することはできませんでしたが、世界中の2010年代以降の株が一つの系統に収束する傾向にあるという興味深い結果が得られました。ロタウイルスがワクチンから逃避しようとした結果を反映している可能性はあり、今後もロタウイルス陽性検体の解析を地道に続けていくことで明らかになるかもしれません。

抄訳

2006年に世界でロタウイルス(RV)ワクチンが導入される以前、Wa-like株はヒトでの胃腸炎流行の主要な遺伝子型であったが、RVワクチンの普及により、それ以外の遺伝子型の流行も見られるようになった。RVワクチンの導入を経たRVの分子進化を理解するためには、現在および過去の株のゲノム情報を併せて評価する必要がある。我々は、1981-1989年に札幌乳児院で見られた6つのWa-like RVの流行で採取された便検体の全ゲノム解析を行い、それらのゲノム情報を含めて1974-2020年の世界のWa-like RVの分子疫学的検討を行った。系統樹解析では、2000年代までの株が複数の系統に分かれた一方、2010年代以降の株はRVワクチン株とは異なる一つの系統に収束する傾向にあることがわかった。VP7 (G1), VP4 (P[8])タンパクにおいて、主な2010年代の株の属する系統は、既知の中和エピトープにRVワクチン株とは異なるアミノ酸を特異的に有していた。しかし,Bayesian Skyline plotでの有効個体数は1970-2020年の間ほぼ一定で、RVワクチン導入前後で大きな変化はなく、ワクチン導入がWa-like RVの分子進化に影響を与えているという証拠は得られなかった。2022年時点で世界のRVワクチン接種率は51%程度であり、RVワクチン導入による影響を評価するには,より長期の分子疫学的検討が必要である。

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2024/07/01

単純ヘルペスウイルス1型の孤児遺伝子UL31.6にコードされる新規神経病原性因子の同定

論文タイトル
Identification of a novel neurovirulence factor encoded by the cryptic orphan gene UL31.6 of herpes simplex virus 1
論文タイトル(訳)
単純ヘルペスウイルス1型の孤児遺伝子UL31.6にコードされる新規神経病原性因子の同定
DOI
10.1128/jvi.00747-24
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology Ahead of Print
著者名(敬称略)
加藤 哲久, 川口 寧 他
所属
東京大学医科学研究所 感染・免疫部門
著者からのひと言
 本研究は、DNAウイルス研究のプロトタイプであるHSV-1でさえ、病態発現を司るHSV-1遺伝子の全容は未解明であることを示しています。HSV-1病態発現機構を包括的に理解するためには、最先端オミックス解析による新規HSV-1遺伝子の包括的な解読だけでなく、今後も個々の新規HSV-1遺伝子に対して、労力を要する伝統的な性状解析を、着実に継続していく必要があると我々は信じ、研究を継続しております。

抄訳

 近年、最先端オミックス解析により、単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)がコードする新規遺伝子が多数報告されている。しかしながら、一連の新規遺伝子の生物学的意義は、ほぼ不明であり、孤児遺伝子として放置されていた。本研究では、新規遺伝子UL31.6に着目し、UL31.6欠損は、(i) 3種類の神経系細胞におけるHSV-1プラーク形成能を有意に減少させたが、4種類の非神経細胞では影響しないこと、(ii) 頭蓋内感染マウスの死亡率および脳内における子孫ウイルス量を有意に減少させたが、眼球およびその周辺の病態発現や涙液に検出される子孫ウイルス量にはほぼ影響しないこと、を明らかとした。一連の結果より、UL31.6は、おそらく中枢神経系組織において神経細胞間のHSV-1感染を促進することで、特異的に神経病原性因子として機能することが示唆された。孤児遺伝子UL31.6がHSV-1の病態発現を司るという本知見を鑑みると、従来ジャンクとして放置されてきた孤児遺伝子も、様々な生物学的意義を有している可能性が考えられる。

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2024/06/26

SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する

論文タイトル
Solo regulates the localization and activity of PDZ-RhoGEF for actin cytoskeletal remodeling in response to substrate stiffness
論文タイトル(訳)
SoloはPDZ-RhoGEFの細胞内局在と活性を制御することで、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する
DOI
10.1091/mbc.E23-11-0421
ジャーナル名
Molecular Biology of the Cell
巻号
Molecular Biology of the Cell Vol. 35, No. 6
著者名(敬称略)
國富 葵 大橋 一正 他
所属
東北大学大学院 生命科学研究科 分子細胞生物分野 大橋研究室

抄訳

細胞は機械刺激を感知すると、アクチン骨格を適切に再構築することで多様な力学的環境に適応する。我々はこれまで、機械刺激応答に関与するRhoGEF(低分子量Gタンパク質Rhoの活性化因子)としてSoloを見出し、その機能解析を進めてきた。今回、Soloの相互作用タンパク質を網羅的に探索し、同じRhoAのGEFであるPDZ-RhoGEF(PRG)を特定し、PRGがSoloの下流で働くことを明らかにした。PRGは、Solo依存的に細胞基底部のSolo集積箇所に局在が誘導され、Soloとの結合で直接GEF活性が活性化し、その結果、Solo集積箇所のアクチン重合が促進することが示された。さらに、この相互作用は細胞が接着する基質の硬さに応じたストレスファイバー形成を行うために必要であることを明らかにした。本研究により、基質の硬さに応じたアクチン骨格の再構築に寄与する新規のRhoGEFカスケードの存在が明らかになった。

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2024/06/25

前立腺摘除術または腎部分摘除術を受けた患者におけるセファゾリンの総濃度および遊離型濃度を用いた母集団薬物動態解析および至適投与方法の探索

論文タイトル
Population pharmacokinetics and pharmacodynamic target attainment analysis of cefazolin using total and unbound serum concentration in patients with prostatectomy or nephrectomy
論文タイトル(訳)
前立腺摘除術または腎部分摘除術を受けた患者におけるセファゾリンの総濃度および遊離型濃度を用いた母集団薬物動態解析および至適投与方法の探索
DOI
10.1128/aac.00267-24
ジャーナル名
Antimicrobial Agents and Chemotherapy
巻号
Antimicrobial Agents and Chemotherapy Ahead of Print
著者名(敬称略)
小松 敏彰 他
所属
北里大学病院  薬剤部

抄訳

本研究は、周術期におけるセファゾリン(CEZ)の最適な投与方法を探ることを目的として、CEZの総濃度および遊離型濃度を用いて母集団薬物動態解析を行った。対象は、前立腺摘除術または腎部分摘除術を受け、CEZが投与された152名の患者とした。解析は、Langmuir型を仮定し、CEZの血中蛋白質との結合定数(Kd)および最大結合部位数(Bmax)を用いたprotein binding siteを含む2コンパートメントモデルで行った。至適投与方法の検討には、モンテカルロシミュレーション法を使用し、CEZの黄色ブドウ球菌に対するMIC90(0.5mg/L)および大腸菌に対するMIC50(1mg/L)を超える投与量とした。母集団薬物動態解析の結果、クリアランス(CL)の因子としてCLcrが、Bmaxの因子としてアルブミンが挙げられた。至適投与方法の検討の結果、腎機能が正常な患者では3時間毎、中程度の腎機能低下患者(CLcr:20-45mL/min)では6時間毎、高度の腎機能低下患者(CLcr≦20mL/min)では12時間毎の投与が望ましいことが明らかとなった。

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2024/06/24

3D-FIESTAを用いた嗅球測定のパーキンソン病と非典型パーキンソン症候群の鑑別における有用性

論文タイトル
Usefulness of Olfactory Bulb Measurement in 3D-FIESTA in Differentiating Parkinson Disease from Atypical Parkinsonism
論文タイトル(訳)
3D-FIESTAを用いた嗅球測定のパーキンソン病と非典型パーキンソン症候群の鑑別における有用性
DOI
10.3174/ajnr.A8275
ジャーナル名
American Journal of Neuroradiology
巻号
American Journal of Neuroradiology June 2024
著者名(敬称略)
井手 智 他
所属
産業医科大学 放射線科学講座
著者からのひと言
この論文の新規性は、嗅球の面積計測が日常診療で遭遇するさまざまなパーキンソン症候群とパーキンソン病の鑑別に有用であること、さらに病初期においても鑑別が可能であることを示した点にある。嗅球面積測定は簡便な手法であり、3D-FIESTAは約2分で撮像が可能であるため、パーキンソニズムの精査におけるMRI検査に組み入れることができる。臨床的あるいは通常の画像診断でパーキンソン症候群との鑑別が難しい症例において、診断の一助となることが期待される。

抄訳

本研究はパーキンソン病(PD)で病初期から嗅覚障害を生じることに注目し、MRIによる嗅球萎縮の評価が非典型パーキンソン症候群(AP)との鑑別において有用であることを示した研究である。108名のPD、13名の皮質基底核症候群(CBS)、15名の多系統萎縮症(MSA)、17名の進行性核上性麻痺(PSP)、および39名の年齢を一致させた健常群を対象に、3D-FIESTAで嗅球面積の計測およびグループ間比較を行った。結果として、PDでは平均4.2 mm²で、健常群(6.6 mm²)、CBS(5.4 mm²)、MSA(6.5 mm²)、PSP(5.4 mm²)よりも有意に小さいことが判明した。さらに、本態性振戦などの非変性パーキンソン症候群との比較でも、PDでは嗅球面積が有意に小さかった。ROC解析で、嗅球面積の測定はPDとAPの鑑別において高い診断精度を示し、AUCは0.87、最適カットオフ値は5.1 mm²、偽陽性率は18%であった。発症から2年以内の症例でも、PDの嗅球面積はAPよりも有意に小さかった。本研究の結果から、3D-FIESTAによる嗅球面積の計測はPDとAPを区別するための有望な手法であることが示唆された。

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