抄訳
グルタチオン(GSH)はγ-Glu-Cys-Glyで構成され、活性酸素種の消去や蛋白質の立体構造化に関与する。GSH欠乏の報告は多数存在する一方、高レベルのGSHに対する細胞生理学的研究は少ない。本研究では、S. cerevisiaeにGSH膜輸送体Hgt1経由で過剰量のGSHを細胞内に流入させ増殖遅延を誘導し(この状態をGSHストレスと定義する)、この遅延を抑圧する多コピーサプレッサーをゲノムワイドに探索した。その結果、糖飢餓応答因子として知られるリン酸化酵素RIM11が取得された。表現型解析の結果、RIM11が自己リン酸化活性を通じてGSHストレス応答で機能することを見出した。次にRNA-seq解析より、糖濃度の感知に関わるHXT1/2(低/高親和性ヘキソース輸送体)およびリン脂質生合成遺伝子の転写量が、Rim11活性に正に依存する知見を得た。さらにリピドミクス解析より、GSHストレス誘導によってホスファチジルコリン/セリン/エタノールアミンが減少し、ホスファチジルイノシトールは増加した。ここにRIM11を過剰発現させると、これらリン脂質が一様に増加に転じ、GSHストレスを抑圧する効果が見られた。しかし,RIM11 K68Aの過剰発現では、この効果は得られなかった。以上より我々は、Rim11が糖飢餓応答を活性化させ、GSHストレス誘導によるリン脂質構成の不均衡を部分的に解除することで、GSHストレスを減弱化させるモデルを提唱する。