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2025/02/26

急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測

論文タイトル
Stratifying and predicting progression to acute liver failure during the early phase of acute liver injury
論文タイトル(訳)
急性肝障害の初期段階における層別化と急性肝不全への進展予測
DOI
10.1093/pnasnexus/pgaf004
ジャーナル名
PNAS Nexus
巻号
Volume 4, Issue 2
著者名(敬称略)
吉村 雷輝1, 田中 正剛2,3, 黒川 美穂2,3, 岩見 真吾1,4,5,6, 小川 佳宏2,3 他
所属
名古屋大学大学院 理学研究科理学専攻 異分野融合生物学研究室1
九州大学大学院 医学研究院 病態制御内科学2
九州大学病院 肝臓・膵臓・胆道内科3
九州大学マス・フォア・インダストリ研究所4
理化学研究所 数理創造プログラム5
京都大学高等研究院ヒト生物学高等研究拠点6

著者からのひと言
急性肝障害・急性肝不全の成因はウイルス性肝炎や薬物性肝障害など多岐にわたりますが、同じ成因でも臨床経過はまちまちです。従来の臨床研究的手法では既知の因子に基づいて分類するため、このような不均一な集団を未知の病態に基づいて分類することが困難でした。本研究では人工知能技術を用いた機械学習的アプローチにより、データ駆動型に後方視的解析を行うことにより治療反応性、ひいては病態を反映する分類を実現しました。このような臨床医学と数理科学の異分野融合的アプローチは、他の急性疾患の病態解明にも応用できる可能性があります。

抄訳

急性肝不全(ALF)は、急性肝障害(ALI)から進行する重篤な疾患であり、多くは多臓器不全から最終的には死に至る。現在、ALFの予後を改善できる治療は肝移植しかないが、ALIは非常に不均一な疾患であるため、どのALI患者がALFに進行し、肝移植を要するかを予測する定量的な指標が存在しなかった。本研究では、ALI 319例のデータを機械学習的アプローチにより後方視的に解析し、ALIの状態を反映するバイオマーカーとしてプロトロンビン時間活性率(PT%)を同定した。ALF患者における肝移植の必要性を予測する先行研究とは異なり、本研究ではPT%の動態に注目することにより、非常に不均一なALI患者を、臨床経過と予後が異なる6つのグループ、すなわち、自己終息群、内科集中治療反応群、内科集中治療不応群に層別化することができた。驚くべきことに、これらのグループは入院時に得られる臨床データによって高精度に予測可能であった。さらに、数理モデリングと機械学習により、個々のPT%動態が予測できる可能性が示された。この知見により、医療資源配分の最適化、個別化治療の早期導入が可能となり、ALF予後の改善が期待できる。

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