抄訳
マラリア原虫は遺伝的変化を通じて薬剤耐性を獲得するが、そのメカニズムは完全には解明されていない。薬剤耐性のメカニズムを解明するには、新たな遺伝学的ツールの開発が必要である。私たちは先行研究において、突然変異率が増加したマウスマラリア原虫 Plasmodium berghei mutator(PbMut)を開発し、抗マラリア薬ピペラキン(PPQ)耐性を示す変異体を単離した。そして、その原因としてクロロキン耐性トランスポーター(PbCRT)の N331I 変異を同定した。本研究では、新たに作成した PbMut から再び PPQ 耐性変異体を単離し、原因遺伝子変異としてPbCRTのアミノ酸119番にナンセンス変異を見出した。ヒト熱帯熱マラリア原虫 Plasmodium falciparum の PbCRT オルソログである PfCRT は、P. falciparum の生存に必須である。そこで、PbCRT の必須性を検討するため、野生型原虫から PbCRT 遺伝子を完全に欠失 [PbCRT(-)] させることに成功した。この結果から、PbCRT は P. berghei の生存に必須ではないことを初めて明らかにした。さらに、PbCRT(-) 原虫は PPQ 耐性を示すと同時に、マウスおよび蚊体内での生存適応度が低下することが確認された。本研究は、PbCRT の機能を完全に失うことによって P. berghei が PPQ 耐性を獲得し得ることを初めて証明したものである。