本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/03/07

マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに

論文タイトル
Multiomics analysis unveils the cellular ecosystem with clinical relevance in aldosterone-producing adenomas with KCNJ5 mutations
論文タイトル(訳)
マルチオミクス解析によりKCNJ5変異陽性アルドステロン産生腺腫における臨床的意義を持つ細胞生態系が明らかに
DOI
10.1073/pnas.2421489122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America Vol.122 No.9
著者名(敬称略)
馬越 真希、藤田 政道、馬越 洋宜、小川 佳宏 他
所属
九州大学大学院医学研究院病態制御内科学分野
(九州大学病院 内分泌代謝・糖尿病内科)
著者からのひと言
本研究では、最先端の単一細胞解析技術と空間トランスクリプトーム解析を組み合わせることで、アルドステロン産生腺腫の内部に存在する複雑な細胞社会を可視化することに成功しました。特に、腫瘍内でのコルチゾール産生が血中コルチゾール濃度上昇や椎体骨折に関連するという発見は、これまで説明が困難だった臨床症状の分子メカニズムを解明するものです。この知見は、より効果的な内科的治療法の開発につながる可能性があり、患者さんのQOL向上に貢献できると期待しています。

抄訳

アルドステロン産生腺腫(APA)は、副腎の良性腫瘍であり、アルドステロンの過剰産生による二次性高血圧を引き起こします。APAの多くはKCNJ5遺伝子に変異を持ち、通常の高血圧と比べて様々な臓器の合併症が起こりやすい特徴がありますが、詳しい分子メカニズムは不明でした。本研究では、最新のマルチオミクス解析技術を用い、APAには4つの異なる腫瘍細胞集団(①ストレス応答性細胞、②アルドステロン産生細胞、③コルチゾール産生細胞、④間質様細胞)が存在することを発見しました。腫瘍細胞はストレス応答性細胞から、アルドステロン産生細胞あるいはコルチゾール産生細胞へと分化し、後者は増殖能力の高い間質様細胞に進展することを明らかにしました。腫瘍内には脂質関連マクロファージが多く存在し、コルチゾール産生細胞や間質様細胞との相互作用により、腫瘍のコルチゾール産生の増加や腫瘍増大に関連することが示唆されました。さらに、腫瘍内のコルチゾール産生が、血中コルチゾール濃度を上昇させ、それが椎体骨折の発症に関連することが明らかになりました。本研究により、複雑な細胞間相互作用を特徴とするAPAの多様な細胞生態系の分子メカニズムと臨床的意義が明らかになりました。

論文掲載ページへ