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2025/03/12

甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究

論文タイトル
Potassium Iodide Use and Patient Outcomes for Thyroid Storm: An Observational Study
論文タイトル(訳)
甲状腺クリーゼに対するヨウ素の効果:観察研究
DOI
10.1210/clinem/dgae187
ジャーナル名
Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism
巻号
The Journal of Clinical Endocrinology & Metabolism, Volume 110, Issue 2, February 2025
著者名(敬称略)
松尾 裕一郎
所属
東京大学大学院医学系研究科 社会医学専攻 臨床疫学・経済学
著者からのひと言
理論的には、ヨウ素はバセドウ病による甲状腺中毒症に対して効果が期待されるが、バセドウ病以外の疾患による甲状腺中毒症では効果を期待できない。今回の研究では、甲状腺クリーゼにおいてもその傾向が確認され妥当な結果である。一方で実際の臨床場面では、甲状腺クリーゼの診断段階では背景の甲状腺疾患が明確に特定できないこともある。本研究でバセドウ病の診断が無い患者でもヨウ素の投与により院内死亡率は上昇しなかったことから、たとえ初診時に背景の甲状腺疾患が不明であってもヨウ素を投与することは許容されると考えられる。

抄訳

【背景】多くの臨床ガイドラインにおいて、甲状腺クリーゼの初期治療として抗甲状腺薬、β遮断薬、ステロイドに加えてヨウ素の使用が推奨されている。しかし、甲状腺クリーゼに対するヨウ素の臨床効果を検証した研究は乏しい。【方法】厚生労働科学研究DPCデータ調査研究班のデータベースを利用した後ろ向きコホート研究を実施した。2010年7月から2022年3月までに甲状腺クリーゼにより入院した患者を同定し、入院2日以内にヨウ素を投与された患者(ヨウ素投与群)と投与されなかった患者(ヨウ素非投与群)の院内死亡を、ロジスティック回帰分析により比較した。また、背景疾患としてのバセドウ病の診断の有無で層別化したサブグループ解析も実施した。【結果】3,188人(ヨウ素投与群 2,350人、ヨウ素非投与群 838人)の甲状腺クリーゼ患者が対象となり、粗院内死亡率はそれぞれ6.1%と7.8%であった。ヨウ素非投与群を対照とするヨウ素投与群の院内死亡の調整後オッズ比は0.91(95%信頼区間 0.62–1.34)で有意差を認めなかった。バセドウ病患者では調整後オッズ比 0.46(95%信頼区間 0.25–0.88)とヨウ素投与群で院内死亡率が有意に低く、非バセドウ病患者では調整後オッズ比 1.11(95%信頼区間 0.67–1.85)と有意差を認めなかった。【結論】バセドウ病による甲状腺クリーゼ患者では、ヨウ素の投与により院内死亡率が低下する可能性が示唆される。

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