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2025/03/25

脊髄TRPC3チャネルは神経障害性疼痛を促進し、ホスホリパーゼC誘発機械痛覚過敏を媒介する

論文タイトル
Spinal TRPC3 promotes neuropathic pain and coordinates phospholipase C–induced mechanical hypersensitivity
論文タイトル(訳)
脊髄TRPC3チャネルは神経障害性疼痛を促進し、ホスホリパーゼC誘発機械痛覚過敏を媒介する
DOI
10.1073/pnas.2416828122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.11
著者名(敬称略)
戸堀翔太 白川久志
所属
京都大学大学院薬学研究科生体機能解析学分野
著者からのひと言
「痛み」は生体の重要な警告システムですが、耐え難いほどの異常な疼痛が長期的に持続すると、生活の質が著しく損なわれます。本成果は末梢神経損傷後の神経障害性疼痛における脊髄TRPC3の病態生理学的重要性を初めて明らかにしたものです。今回の発見により、サブスタンスPやATPといった発痛物質の作用を個別に阻害するよりも、「痛みの伝導路である中枢のニューロンの活動を抑制する」という戦略の重要性が明らかとなりました。中枢神経系に到達するTRPC3阻害薬の開発が、未だに著効薬が乏しい神経障害性疼痛に対する有望な創薬戦略になると期待されます。

抄訳

神経障害性疼痛は主に末梢神経損傷により生じる慢性疼痛であり、その病態形成には末梢・中枢における体性感覚神経系の病変が深く関与するが、その創薬戦略は定まっていない。Transient receptor potential canonical 3 (TRPC3) はPLCと共役して細胞外からのCa2+流入を担う受容体活性化型チャネルである。中枢神経系や一次感覚神経、末梢免疫細胞等に広く発現することから、本研究では末梢神経損傷後の神経障害性疼痛に対するTRPC3の関与について検討した。その結果、pSNL処置による機械痛覚過敏の発症がTRPC3欠損により顕著に抑制されることが明らかとなった。さらに、脊髄後角神経細胞特異的にTRPC3をノックダウンするとpSNL処置後の機械痛覚過敏が抑制された。野生型マウスにTRPC3アゴニストGSK1702934Aを髄腔内投与すると急性の機械痛覚過敏が認められ、神経障害性疼痛の病態と関連する脊髄NK1RおよびPLC活性化により惹起される機械痛覚過敏はTRPC3欠損により抑制された。以上の結果より、末梢神経損傷後の神経障害性疼痛において、脊髄後角神経細胞TRPC3がGq-PLC経路を介して疼痛形成に重要な役割を果たすことが示された。

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