抄訳
Ralstonia pseudosolanacearum (青枯病菌)OE1-1株は、クオラムセンシングシグナルとして、自ら分泌するmethyl 3-hydroxymyristate (3-OH MAME)を、センサーヒスチジンキナーゼPhcSを介して受容する。そして、3-OH MAME受容によるPhcSの230番目のアミノ酸残基ヒスチジン (H230-PhcS)の自己リン酸化が、LysR型転写因子PhcAの活性化をもたらす。活性化PhcAにより、多くの病原力関連遺伝子を含むQS依存遺伝子の発現が制御される。さらに、センサーヒスチジンキナーゼPhcKが、3-OH MAMEの受容に独立して関わるphcA遺伝子 (phcA)の発現制御に、PhcSも関与する。本研究では、PhcSとPhcKによるphcAの発現制御機構の解明を目指した。PhcKの自己リン酸化部位と想定される205番目のヒスチジンをグルタミン酸に置換したところ、phcAの発現に有意な変化が認められなかった。一方、H230-PhcSのグルタミン酸への置換により、phcK遺伝子あるいはphcAの欠損と同様に、QS依存遺伝子の発現が有意に変化し、病原力が喪失した。すなわち、H230-PhcS230の自己リン酸化が、3-OH MAME受容に依存したPhcAの活性化とともに、3-OH MAME受容に独立したPhcKによるphcA発現制御に関わる。これらの結果から、PhcSが関わる複数の二成分制御系が、青枯病菌の病原力を司るクオラムセンシングに不可欠であることが示唆された。