抄訳
糸状菌は生物活性を有する多様な化合物を生産する。そのような化合物は、自然環境中の生存競争に寄与し、病原菌であれば宿主への感染にも貢献すると考えられる。世界中で多くの患者が罹患している皮膚病原糸状菌に関して、生物活性を持つ化合物に関する研究は限られている。本研究では、感染部位における皮膚微生物叢との相互作用の理解を目指し、Trichophyton rubrumにおいて抗バクテリア活性を示す化合物を探索した。赤色色素化合物として知られていたviomelleinが強い抗バクテリア活性を示すことを明らかにし、トランスクリプトーム解析や遺伝子破壊実験によりその生合成遺伝子クラスター(vioクラスター)を同定した。麹菌を宿主としたvioクラスター遺伝子の再構成実験により、nor-toralactoneからviomelleinに至る生合成経路を示した。また、vioクラスターは皮膚病原糸状菌に広く保存されており、多くの皮膚病原糸状菌株がviomelleinだけでなく構造類似体のxanthomegninやvioxanthinも産生することができた。本研究により、皮膚病原糸状菌が産生する抗バクテリア化合物の分子実体を明らかになり、皮膚微生物叢と病原菌の相互作用を理解する上での重要な知見が提供された。