抄訳
ドコサヘキサエン酸 (DHA) は健康成分として知られる炭素数22の多価不飽和脂肪酸 (PUFA) であり、その生合成にはDHA合成酵素が関与します。真核微細藻類や原核海洋細菌由来のDHA合成酵素中には炭素鎖を2つずつ反復して伸長するケト合成酵素 (KS) ドメインが2つ (KSAとKSB/C) 含まれています。本研究では、2つのKSドメインの基質特異性を、組換え酵素とほぼ全ての中間体を用いたin vitro実験で解析しました。その結果、KSAは炭素数6、12、18の中間体を、KSBは炭素数8、14、20の中間体を特異的に認識すること、また、炭素数2、4、10の中間体は両ドメインによって認識されて鎖伸長反応が起こることを明らかにしました。これらの結果は、2つのKSドメインが中間体基質のチオエステル近傍の構造によって巧妙に使い分けられていることを示唆します。本研究は、DHA合成酵素の基質選択メカニズムを詳細に解明した初の包括的解析であり、PUFA合成の分子機構の理解を深めるとともに、DHAの効率的な生産技術の開発に貢献する可能性があります。