抄訳
麻黄湯は、インフルエンザウイルス感染症に対する有効性がすでに知られている漢方薬であるが、その詳細な作用機序は未解明であった。本研究では、麻黄湯およびその構成生薬による抗インフルエンザウイルス作用のメカニズムを明らかにした。麻黄湯はウイルス表面のヘマグルチニン(HA)に結合し、A型(H1N1およびH3N2)およびB型を含む複数の株において、ウイルスの細胞侵入を阻害することが判明した。さらに、ウイルスとともに細胞内に取り込まれた麻黄湯は、ウイルス複製に必須なPAエンドヌクレアーゼにも結合し、その酵素活性を抑制した。構成生薬の中でも、麻黄および桂皮がHAおよびPAの双方に作用し、麻黄湯の抗ウイルス効果の中核を担っていることが示唆された。麻黄湯は、ウイルスの侵入と複製という複数の段階を標的とする多機序的な抗ウイルス作用を有しており、インフルエンザウイルスの変異にも柔軟に対応可能な新たな治療選択肢として期待される。