抄訳
ヒトMTH1は、活性酸素種によって生じた酸化ヌクレオチドを広い基質特異性により加水分解して除去する酵素であり、抗がん剤の標的としても注目されている。これまでの研究から、MTH1の基質・阻害剤の結合には、基質結合ポケット内のアミノ酸残基のプロトン(水素原子)の付加や脱離、すなわちプロトン化/脱プロトン化状態が重要であると示唆されていたが、水素原子を直接観察することの難しさから、その状態を実験的に証明するには至っていなかった。本研究では、水素原子の位置を高感度で検出可能な中性子構造解析を用いることでMTH1の基質結合ポケット内の水素原子を可視化し、Asp119とAsp120のプロトン化状態の変化が広範な基質・阻害剤結合を可能にしていることを実験的に初めて実証した。さらに、時分割X線構造解析によりMTH1の加水分解反応過程を動的に観察し、MTH1が属する大規模な加水分解酵素群であるNudixファミリーに共通すると考えられる反応機構を提案した。