抄訳
Non-O1/O139型コレラ菌(NAGビブリオ)は、腸管感染症や敗血症などを引き起こす病原細菌であり、近年は地球温暖化などの影響によって環境中での増殖が促進され、感染拡大への懸念が高まっています。一方で、国内におけるNAGビブリオ感染症は感染症法に基づく病原体サーベイランスの対象外であり、臨床分離株の分子疫学情報は限られていました。本研究では、2020年に名古屋市で報告された3例のNAGビブリオ感染症に由来するコレラ菌株についてゲノム解析を行い、世界各地で過去に報告された臨床分離株との比較解析を実施しました。系統解析の結果、3株は遺伝的に多様であり、短期間に複数の汚染源から散発的に発生した可能性が示唆されました。さらに、細菌毒素、付着因子、III型およびVI型分泌機構関連遺伝子など病原性関連遺伝子の多様性などを明らかにしました。本研究は、日本におけるNAGビブリオ感染事例起因株の分子疫学的特徴を明らかにし、今後の感染症対策や監視体制の構築に資する重要な知見を提供するものです。