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2025/08/18

計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査

論文タイトル
Exploring glycoform-dependent dynamic modulations in human immunoglobulin G via computational and experimental approaches
論文タイトル(訳)
計算科学と実験手法を用いたヒト免疫グロブリンGの糖鎖に依存した構造動態変化の探査
DOI
10.1073/pnas.2505473122
ジャーナル名
Proceedings of the National Academy of Sciences
巻号
Proceedings of the National Academy of Sciences Vol.122 No.32
著者名(敬称略)
谷中 冴子 加藤 晃一 他
所属
自然科学研究機構 生命創成探究センター
著者からのひと言
抗体は医薬品として広く使われており、そのはたらきを左右する糖鎖の役割が注目されています。本研究では、糖鎖の端に生じるわずかな変化が、まるで人体の“経絡”のように抗体分子の内部を伝わり、離れた部位の構造や結合性に影響を及ぼす様子を可視化しました。こうした遠隔的な制御機構の理解は、抗体医薬の設計に新たな視点をもたらします。

抄訳

ヒトIgG1抗体のFc領域に結合する糖鎖は、抗体の構造と機能に深く関与しています。本研究では、糖鎖構造の違い(ガラクトース付加とフコース除去)がFc領域の動的構造に与える影響を、安定同位体標識NMR分光法と分子動力学シミュレーションを組み合わせて解析しました。ガラクトースは糖鎖をCH2ドメインに固定する「錨」として、またドメインの動きを制限する「楔」として働き、Fc全体の柔軟性を低下させることで、Fcγ受容体(FcγR)や補体C1qとの結合を促進することが示されました。一方、フコースの除去はFcγRIIIaとの結合部位に局所的な動的構造変化をもたらします。これらの糖鎖修飾は異なる機構でありながら相乗的に抗体のエフェクター機能を高めることが明らかとなり、抗体医薬品の合理的設計に向けた重要な知見を提供します。

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