抄訳
古くから、全ての生物は電気信号(細胞膜の電位変化)を巧みに利用して複雑な生命現象を実現させていることが知られてきました。電位依存性ホスファターゼVSPはこの電気信号を膜リン脂質PI(4,5)P2の脱リン酸化酵素反応に変換するユニークな分子であり、マウスを用いた研究から精子の運動制御に重要な役割を果たしていることが報告されてきましたが、VSPの機能を適切に調節するメカニズムは未解明でした。本研究では、蛍光を発する人工アミノ酸の一種であるAnapを用いたvoltage clamp fluorometry実験と分子動力学シミュレーションを組み合わせ、PI(4,5)P2と細胞質内リンカーとの相互作用によってVSPの機能が制御されることを明らかにしました。さらに、VSPが脱リン酸化する「基質の」PI(4,5)P2の影響を排除できる変異体においても同様の相互作用が観察されたことから、「基質とは別の」PI(4,5)P2による機能制御メカニズムの存在が示されました。