抄訳
酵母細胞を用いた異種性分泌蛋白質や脂質類の生産は、コスト面などの優位性から、高い将来性が見込まれるバイオテクノロジーである。小胞体は分泌蛋白質や脂質の生合成を司るオルガネラであり、その機能不全は小胞体ストレスと総称され、折り畳み不全蛋白質の小胞体への蓄積を伴う。出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを含む酵母類の多くでは、小胞体ストレスに応じて転写因子Hac1の発現が誘導され、Hac1依存的なトランスクリプトーム変動によって小胞体の機能が活発化し、小胞体ストレスは解消される。これが酵母類におけるUnfolded Protein Response (UPR)である。Hac1を非制御的に発現するよう遺伝子改変を加えたS. cerevisiae株(Hac1強制発現株)は、常にUPRが惹起されて小胞体の機能が高まり、異種性分泌蛋白質や脂質類の生産能が向上するが、著しく増殖能が低下する。この論文では、ヒストンを脱アセチル化してトランスクリプトームを変動するHistone deacetylase A複合体の欠損により、Hac1強制発現株は高い小胞体機能を保ったまま、増殖能が回復することを示す。