抄訳
Stenotrophomonas maltophilia はL1βラクタマーゼ(メタロβラクタマーゼ)およびL2βラクタマーゼ(クラスA βラクタマーゼ)を産生するため、多くのβラクタム系抗菌薬に自然耐性を示し、治療選択肢が限られている。従来はST合剤やレボフロキサシンが主に用いられてきたが、近年はセフィデロコルやアズトレオナム–アビバクタムなど新規薬剤が注目されている。ナキュバクタム(NAC)はDBO系の新規βラクタマーゼ阻害剤でありβラクタマーゼ阻害作用に加え、PBP2への結合などによる抗菌活性増強効果(エンハンサー効果)を示すことが報告されている。本研究では、2012〜2024年に慶應義塾大学病院で血液培養から分離された53株を対象に、アズトレオナム(ATM)およびセフェピム(FEP)との併用効果を検討した。結果、ATM–NACおよびFEP–NACはいずれも単剤に比して有意にMICを低下させ(P<0.001)、MIC50/90はそれぞれ8/16 µg/mLおよび4/16 µg/mLであった。FEPはL1βラクタマーゼの基質であるが、FEP–NACでは活性が認められたことから、NACのエンハンサー効果が示唆される。これらの結果は、FEPやATMとNACの併用療法がS. maltophilia感染症に対する新たな治療選択肢と今後なりうる可能性を示し、さらなる研究が求められる。