本文へスキップします。

H1

国内研究者論文詳細

日本人論文紹介:詳細

2025/10/21

HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する

論文タイトル
Hepatitis C virus NS3/4A protease cleaves SPG20, a key regulator of lipid droplet turnover, to promote lipid droplet formation
論文タイトル(訳)
HCV NS3/4Aプロテアーゼは脂肪滴調節因子SPG20を切断し脂肪滴形成を促進する
DOI
10.1128/jvi.00890-25
ジャーナル名
Journal of Virology
巻号
Journal of Virology 2025 Sep23: e0089025
著者名(敬称略)
松井千絵子 勝二郁夫 
所属
神戸大学大学院医学研究科附属感染症センター感染制御学分野
著者からのひと言
HCV は肝細胞内に脂肪滴を貯留させ、HCV複製の場を効率よく形成する。このことから、HCV は感染早期に脂肪滴を積極的に肥大化させて、ウイルス増殖に有利な環境を構築していると推察された。今回我々が、HCV 感染による脂肪滴肥大化機構の一端を解明したことにより、HCV増殖阻害、病態改善へとつながることが期待される。また、HCV感染による脂肪滴肥大化、肝脂肪化や肝発癌の分子機序の解明と制御法開発への発展が期待できる。

抄訳

C型肝炎ウイルス(HCV)は感染すると肝細胞内に脂肪滴の蓄積と肥大化を引き起こし、肝脂肪化の原因となる。また、HCVは脂肪滴近傍の膜で複製することから、HCV増殖および病原性に肝細胞の脂肪滴形成が重要である。しかしながら、HCVによる脂肪滴形成および肥大化の分子機構の詳細は不明な点が多い。本研究では、HCV感染が誘導する脂肪滴肥大化の分子機序を解明するため、脂肪滴調節因子SPG20に着目した。HCV NS3/4AプロテアーゼはSPG20を特異的に切断し、E3リガーゼItchが脂肪滴結合蛋白質アディポフィリン(ADRP)へリクルートされるのを阻害することを見出した。ADRPはItchによるユビキチン依存性蛋白分解を回避し、脂肪滴周囲にとどまることで、細胞内のリパーゼによる脂肪滴分解が回避され、脂肪滴の肥大化が維持されることが示唆された。本研究により、これまで未解明であったHCV 感染による肝細胞の脂肪滴肥大化の分子機構が解明され、HCV増殖抑制、治療薬開発への端緒となることが期待された。

論文掲載ページへ