抄訳
人は、他者がどの程度信頼できるかを顔から判断する傾向をもつ。この「顔信頼性判断」については、高齢期に他者を信頼しすぎるポジティビティ・バイアスが強まり、詐欺被害のリスクを高める可能性が指摘されてきた。しかし、この主張を直接裏付ける実証的根拠は乏しい。そこで我々は、信頼ゲームで相手に協力した頻度や、汚職による有罪歴の有無が明らかな男性の顔画像を用い、顔信頼性判断の正確性とバイアスの年齢関連差を検討する3つの研究を行った。参加者レベルの分析では、高齢者の判断の正確性は若年者より高いか(研究1・3)、同程度であった(研究2)。また、「信頼できない」という判断が優勢なネガティビティ・バイアスが全般的に認められ、この傾向は若年者でより強かった。ポジティビティ・バイアスは研究3の高齢者で弱く見られたのみであった。顔画像間の分散を考慮すると年齢関連差の統計的有意性は弱まったが、総じて、本研究の結果は高齢者が若年者と同等かそれ以上に正確かつバイアスの少ない判断を行っていたことを示していた。このことは、高齢者の顔による信頼性判断の楽観的歪みが詐欺への脆弱性を高めているという通説に疑問を投げかける。