抄訳
昆虫において幼若ホルモン(JH)は、変態や生殖だけでなく、カースト分化、形態形成、休眠など多岐にわたる作用を示す。こうした多様な機能が、祖先的なJHの役割からどのように進化してきたかは十分に解明されていない。淡水性甲殻類ミジンコでは、JHがオス産生を誘導することで環境依存型性決定を制御するが、その分子経路は不明であった。本研究では、概日時計遺伝子vrille(Dpvri)がJHシグナルの直接標的であることを明らかにした。レポーター解析により、Dpvriは新たに獲得された9塩基のJH応答配列を介して受容体複合体(Met/SRC)により転写活性化される一方、コクヌストモドキvriには同様の配列が存在せずJH応答性も示さないことが分かった。さらに、CRISPR/Cas9により単一のJH応答配列を欠損させると、JH依存的なDpvri発現が低下し、オス誘導の閾値が上昇した。比較解析から、この配列はミジンコ目で保存される一方、アルテミアには存在しないことが判明し、その出現が環境依存型性決定の起源と一致する可能性が示唆された。これらの結果は、vriが新規JH応答配列の獲得を通じてJH経路に取り込まれたことを示し、節足動物におけるJH機能多様化の仕組みを説明するものである。