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2006/11/02

アデノベクターに基づいた遺伝子治療用ベクター生産に対するシルクタンパク質セリシンの効果

論文タイトル
Effect of the silk protein sericin on the production of adenovirus-based gene-therapy vectors
論文タイトル(訳)
アデノベクターに基づいた遺伝子治療用ベクター生産に対するシルクタンパク質セリシンの効果
DOI
10.1042/BA20060077
ジャーナル名
Biotechnology and Applied Biochemistry 
巻号
September 2006 | vol. 45 | part 2 | 59-64
著者名(敬称略)
柳原佳奈、寺田聡、三木正雄、佐々木真宏、山田英幸
所属
福井大学工学部 生物応用化学科 分子生物物理研究グループ

抄訳

遺伝子治療においてアデノウイルスベクターは目的遺伝子を運ぶ手段として広く用いられている。アデノベクターは一般的にHEK293細胞を培養することによって生産されており、その培養は非常に高価な定義された無血清培地やウシ胎仔血清(FBS)の添加を必要とする。そのため、高価であり、狂牛病や家畜由来の内因性レトロウイルスのような感染の懸念がある。本論文では、アデノベクター生産のためのFBSの代替添加因子としてカイコ由来タンパク質セリシンを利用することを報告する。293細胞に対するセリシンの増殖促進効果を検討したところ、FBSの効果には劣るものの、0.025~0.4%のセリシン存在下では293細胞は明らかに増殖し、特に0.1%セリシン存在下ではより優れた増殖促進効果が見られた。そこで、0.1%セリシンを用いてアデノベクター生産性の向上を検討した。低力価(MOI 0.03)のアデノベクター pAxCAiLacZを293細胞に感染させアデノベクターを生産させた場合、0.1%セリシン存在下では5%FBS存在下のほぼ3倍高いベクター力価を示した。しかしながら、高力価(MOI 3.7)のアデノベクターを感染させて生産したところ、セリシン存在下ではFBS存在下に比べてわずかに高い力価を示した。この場合、セリシン又はFBS添加培養において生産したアデノベクターの力価が生産の限界であり、生産が飽和に達していたことが示唆される。また、これらのセリシンによるアデノベクター生産性の向上はLacZ活性を測定することによっても検証した。アデノベクター生産性の向上の一つの要因として、セリシンの細胞死保護効果に着目し検討したところ、細胞死の指標であるLDH活性がセリシン添加培養では減少した。この結果より、セリシンによる生産細胞の延命効果が生産性の向上に関与していることが示唆された。これらをふまえて、セリシンはBSEやレトロウイルスような感染の懸念を伴わないアデノベクター生産のための有用で効率的な代替因子であるように思われる。

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