抄訳
細胞ではDNA損傷が生じると、それに応答して多くの分子が活性化されることが知られている。なかでもp53はDNA傷害によって細胞周期を止めたり、アポトーシスを誘導するが、どのような仕組みでこれらの機能を使い分けているのか、不明だった。近年、p53のセリン46のリン酸化がp53AIP1の発現を誘導し、アポトーシスによる細胞死が惹起されることが明らかにされた。すなわちこのセリン46をリン酸化する酵素(キナーゼ)は、p53を介したアポトーシス誘導に必須である。にもかかわらず、そのキナーゼは同定されていない。本研究で我々はそのセリン46キナーゼとしてDYRK2を同定した。DNA 損傷によりDYRK2は細胞質から核に移動し、p53のセリン46をリン酸化する。このリン酸化によりp53AIP1の発現とアポトーシス誘導が認められた。一方、細胞内でのDYRK2の発現をRNA干渉により消失させると、p53セリン46のリン酸化が起きなくなり、アポトーシス誘導も有意に抑えられた。これらの結果から、DYRK2はセリン46のリン酸化によりp53のアポトーシス誘導機能を制御していることが明らかとなった。