抄訳
真核細胞の形質膜の脂質外層板には、コレステロール成分の多い脂質ラフトとよばれるクラスター状の微小区画が形成されている。脂質ラフトにはガングリオシド(シアル酸を含むスフィンゴ糖脂質の総称)が集積していることが知られているが、ラフトのガングリオシドの分子構成やそれらの生物機能の発現機構についての詳細は不明である。本研究では著者によって作製されたラフトに対するモノクローン抗体(PR#1)を用い、ラフトの新たなガングリオシド成分としてフコガングリオシドFuc(Gal)-GM1 {α-fucosyl(α-galactosyl)-GM1}を同定した。PC12細胞膜上のFuc(Gal)-GM1はPR#1抗体によって刺激されるとPC12細胞に細胞質突起の発生をうながし、神経成長因子(NGF)と共役的にはたらいて、PC12細胞の神経細胞への分化を促進した。細胞内シグナル伝達にはSrc族キナーゼのFynとYesが関与していた。この機構は相同のガングリオシドの伝達機構(Trk AとERKSキナーゼが関与する)とはまったく異なっていた。形質膜脂質ラフトはガングリオシドの構成の違いによって、機能的に分化したプラットホームを細胞内シグナル伝達機構に提供していることを示唆している。