抄訳
マラリアはハマダラカによって媒介される病気です。マラリア原虫に感染した血液を蚊が吸血すると、蚊の消化管内腔で原虫の雌雄配偶子が受精し、一個の接合体から数千個もの原虫が蚊の体内で増殖します。マラリア原虫の受精はマラリア伝搬阻止のターゲットとして考えられていますが、この現象がいかなる分子基盤の上に成り立っているのかは全く不明でした。著者らは、ネズミマラリア原虫(Plasmodium berghei)のGENERATIVE CELL SPECIFIC1(PbGCS1)という分子がオス配偶子のみに発現していることを発見しました。PbGCS1の機能を調べるため、PbGCS1遺伝子欠損株を作成し蚊に取り込ませたところ、欠損株は蚊の中で増殖することができず、受精のステップで発育が完全にストップしていることを見つけました。さらに、PbGCS1欠損オス配偶子のみが受精不能であることを突き止めました。オス配偶子に特異的なGCS1の機能は被子植物の受精においてすでに発見されています。つまりマラリア原虫と植物の受精現象は、GCS1という共通因子がオス特異的に機能することで営まれていることを初めて発見しました。今回の発見により、GCS1を基盤とした受精メカニズムの解明と、マラリア原虫の受精過程を攻撃するワクチン開発に新しい光が注がれました。