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2008/12/18

ThバランスのTh1型優位への偏向により腫瘍内単核食細胞の成熟が抑制される

論文タイトル
Skewing the Th cell phenotype toward Th1 alters the maturation of tumor-infiltrating mononuclear phagocytes
論文タイトル(訳)
ThバランスのTh1型優位への偏向により腫瘍内単核食細胞の成熟が抑制される
DOI
10.1189/jlb.1107729
ジャーナル名
Journal of Leukocyte Biology 
巻号
September 1, 2008|Vol. 84|Issue 3|679-688
著者名(敬称略)
野中健一1、齊尾征直(連絡著者)2、他
所属
1 岐阜大学大学院医学研究科腫瘍制御学講座 腫瘍外科2          同                   免疫病理学

抄訳

【緒言】単核食細胞(MPC)は狭義には単球とマクロファージを含む概念である。他方、従来腫瘍内浸潤MPCは多くの場合腫瘍内浸潤マクロファージ(TIM)と呼ばれ、免疫抑制的に働くことが知られていた。ところが近年、担癌状態では骨髄球系(顆粒球・単球両系を含む)の分化と成熟が異常となり骨髄球由来抑制細胞(MDSC)が骨髄や脾などのリンパ器官内で形成され、単球系MDSCが腫瘍内へ浸潤し最終的には腫瘍内浸潤マクロファージ(TIM)へも分化する可能性が示唆された。

【研究目的】そこで、本研究では、単球系MDSC、TIMを個別に区分するのではなく腫瘍内浸潤MPC(腫瘍内MPC)として包括的に捉えるとともに、腫瘍内MPCの成熟分化を免疫治療により制御することができるか検討した。

【方法】マウス大腸癌細胞株MCA38腺癌細胞株にIL-2と可溶型TNF受容体II型(sTNFRII)cDNAを単独あるいは共導入することで免疫治療モデルを作製し、腫瘍内からMPCやT細胞を単離し解析に用いた。

【結果】対照群の腫瘍内ではMPCの70%以上が成熟マクロファージ(F4/80+Ly6C-)、残りは未熟な単球(F4/80+Ly6C+)であったが、IL-2とsTNFRII共導入腫瘍群においては腫瘍内MPCの成熟が抑制されるとともに、試験管内での性質も著しく変化し試験管内で生存できなくなった。その原因は少なくとも2つあり、1つはFas依存性のアポトーシスであり、もう1つはMPC表面のM-CSF受容体(M-CSFR)の発現消失であると考えられた。また、対照群において腫瘍内浸潤CD4 T細胞(CD4 TIL)はIL-13やIL-4といったTh2型のサイトカインを発現していたが、共導入群CD4 TILのIL-13発現は低下しており、IFN-γ発現は保たれTh1優位に偏向していた。

【考察】従来からマクロファージの成熟分化は、Th1優位であれば抗腫瘍性のM1型へ、Th2優位であれば免疫抑制性のM2型へ成熟することが知られ、腫瘍内はM2型優位であるといわれてきた。本研究では、免疫治療により腫瘍内のThバランスがTh1型優位に偏向すると腫瘍内MPCの成熟・分化は抑制され、 M2型免疫抑制性マクロファージへの成熟が抑制されることが示唆された。

【結語】腫瘍の微小環境を変化させることで腫瘍内MPCの成熟・分化を変化させることが可能であることが本研究では示され、今後の免疫治療において腫瘍内MPCの成熟・分化制御に着目することの重要性が明らかとなった。

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