抄訳
水棲種を除く多くの無尾両生類は、下腹部皮膚から水を吸収し、膀胱に貯蔵した尿から水を再吸収することで、生体の水バランスを維持している。本研究により、生息域の異なる無尾類のアクアポリン(AQP)を解析・比較した結果、無尾類には基本的に、下腹部皮膚と膀胱にそれぞれ固有の抗利尿ホルモン依存性AQP(下腹部皮膚型と膀胱型)が発現していることが判明した。さらに、これらのAQPの発現様式の変化が、無尾類の多様な水環境への適応能と深く関連していることが示唆された。陸棲や樹上棲のカエルでは、生理学的な研究から、抗利尿ホルモンに応答して下腹部皮膚から効率よく水を吸収することが知られていたが、これらの種では、膀胱型AQPが下腹部皮膚型AQPとともに下腹部皮膚に発現していた。対照的に、水中棲のツメガエルでは、下腹部皮膚は抗利尿ホルモンに応答せず、水透過性も極めて低いことが知られていたが、この種では、下腹部皮膚型AQP(AQP-x3)mRNAからの翻訳が認められなかった。AQP-x3のアミノ酸配列を他種と比較すると、C末端側にCys273を基点として11アミノ酸残基長い配列 (CT tail) が認められた。このCysをSerや終始コドンに変えた変異体(C273SまたはC273Stop)をツメガエル卵発現系で調べると、野生型AQP-x3のcRNAではタンパク質発現は見られないが、C273SおよびC273StopのcRNAではタンパク質発現が見られ、これらのAQPタンパク質により水透過能が亢進した。また、アマガエルの腎臓型AQPであるAQP-h2Kでは、cRNAからタンパク質が発現するが、AQP-h2KにCT tailを付加したキメラ分子のcRNAでは、タンパク質が発現しなかった。これらの結果から、ツメガエルでは、AQP-x3のCT tailをコードする33個のヌクレオチドに、タンパク質発現を抑制する機能があり、これにより下腹部皮膚からの過剰な水透過が抑制され、ツメガエルの水中生活への適応が保証されていると考えられる。本研究により、1790年代のR. Townson博士の発見以来蓄積されてきた無尾類の水吸収特性や生息域に応じた相違に関する研究成果が、分子レベルで理解できるようになった。